ロンサーフの脱毛は休薬基準の対象外なので、発現しても投与を継続できます。

ロンサーフ(一般名:トリフルリジン・チピラシル塩酸塩配合錠)は、治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌および胃癌に用いられる経口ヌクレオシド系抗悪性腫瘍剤です。「抗がん剤=脱毛が起こる」という印象を患者が持っていることは多く、医療従事者も同様の先入観を持ちやすい副作用の一つです。
しかし、現行の電子添付文書(2024年10月改訂第4版)において、脱毛症(脱毛症、皮疹/落屑、手足症候群、そう痒症)は皮膚皮下組織の欄に「5%未満」と記載されています。これはイリノテカンやアンスラサイクリン系薬剤で高頻度(50%以上)にみられる脱毛とは大きく異なります。つまり、ロンサーフでは脱毛よりも骨髄抑制(好中球減少58.2%、貧血29.6%、白血球減少21.0%)を圧倒的に優先して管理すべきです。
| 副作用 | 発現頻度 | 分類 |
|---|---|---|
| 好中球減少 | 58.2% | 重大な副作用(骨髄抑制) |
| 貧血 | 29.6% | 重大な副作用(骨髄抑制) |
| 白血球減少 | 21.0% | 重大な副作用(骨髄抑制) |
| 血小板減少 | 18.0% | 重大な副作用(骨髄抑制) |
| 悪心 | 10%以上 | その他の副作用 |
| 脱毛症 | 5%未満 | その他の副作用(皮膚皮下組織) |
脱毛が5%未満ということは、100人の患者にロンサーフを投与した場合、脱毛が起こるのは5人未満です。一方で骨髄抑制は半数以上に発現します。管理の優先度は明確です。
ただし、5%未満であっても患者本人にとっては「自分に起こるかどうか」の確率論ではなく、「実際に起こったとき」の衝撃は大きい副作用です。この数字を伝えつつも、万が一発現した際の対応を丁寧に説明しておくことが、患者の安心感につながります。
ロンサーフ添付文書(KEGG MEDICUS)−副作用の分類と発現頻度の詳細が確認できます
医療従事者が押さえておくべき最重要ポイントの一つが、「ロンサーフの脱毛は休薬・投与中止の対象とならない」という点です。
添付文書7.2項の非血液毒性の休薬基準には、「Grade 3以上の非血液毒性が発現した場合は休薬する」と記載されています。しかし同時に、「脱毛、味覚異常、色素沈着、原疾患に伴う症状は除く」と明示されています。つまり、たとえ脱毛の程度がGrade 2以上であっても、それだけを理由として休薬や減量を行う必要はないということです。
これは臨床的に重要な意味を持ちます。なぜなら、患者や家族が「髪が抜けてきたから薬をやめてほしい」と訴えてきた場合でも、脱毛を理由に治療を中断する医学的根拠はないからです。
つまり骨髄抑制の数値が投与開始基準(好中球数1,500/mm³以上、血小板数75,000/mm³以上など)を満たしていれば、脱毛が起きていても治療を継続できます。この情報を患者に事前に伝えておくことで、「脱毛が出たから治療をやめなければいけない」という誤解を防ぐことができます。
処方医・薬剤師・看護師が統一した説明を行うことが、患者の不安を減らし治療アドヒアランスを維持するうえで非常に重要です。
大鵬薬品「ロンサーフ適正使用情報 第11章 休薬・投与再開の目安」−脱毛の除外規定を含む休薬基準が明示されています
脱毛がいつ起こるのか、いつ回復するのかを患者に正確に伝えることは、治療中のQOL維持に直結します。
ロンサーフによる脱毛の発現時期は、投与開始から3〜4週間後が目安とされています。これはちょうど1コース(4週間サイクル)の服薬期間と重なる時期です。最初から「このタイミングで毛が抜けてくることがある」と伝えておくことで、患者は心構えができます。
髪だけでなく、体毛・眉毛・まつ毛など全身の毛が影響を受ける可能性があります。患者によっては「まつ毛が抜けるとは思っていなかった」と驚くケースもあるため、この点も事前説明に含めることが望ましいです。
回復の見通しについては、投与終了後6〜8週間で発毛が始まり、約半年(6ヶ月前後)でほぼ回復するとされています。6〜8週間というのは、卵1個が孵化するまでの期間と同程度のイメージで伝えると患者には分かりやすいかもしれません。
ただし、この回復期間はあくまで目安であり、個人差があります。また、ロンサーフを長期にわたって継続している場合は治療中も脱毛が続くため、「治療終了後に回復する」という旨を強調して伝えると良いでしょう。
脱毛中のケアとしては、毛先のやわらかいブラシの使用、低刺激の中性シャンプー選択、スカーフ・帽子・ウィッグの活用などが一般的です。外来化学療法室の看護師が、ウィッグに関する医療費控除の相談窓口を案内できるよう準備しておくと患者サポートが充実します。
名古屋記念病院「ロンサーフ・ベバシズマブ療法 患者向けパンフレット」−脱毛の発現時期・回復の目安・セルフケア方法が患者視点でまとめられています
脱毛は患者に見えやすく不安を引き起こしやすい副作用ですが、医療従事者として伝えるべき「最優先の副作用」は骨髄抑制です。
ロンサーフの添付文書における重大な副作用の筆頭は骨髄抑制(好中球減少58.2%)であり、次いで感染症(5.6%)です。骨髄抑制による感染症は死亡に至る症例も報告されており、添付文書の「警告」欄にも「骨髄機能が抑制され感染症等の重篤な副作用が増悪または現れることがある」と記載があります。好中球減少は治療開始後8〜12日ごろに起こりやすく、日常ではちょうど1週間半から2週間目という感覚です。
患者説明における優先度は以下の順序で整理しておくと、説明漏れを防げます。
「脱毛がないから今月は調子が良い」という患者ほど、血液検査をきちんと確認する必要があります。可視化できる脱毛とは異なり、骨髄抑制は血液データとしてしか把握できないため、定期採血の重要性を繰り返し伝えることが大切です。
また、発熱(38℃以上)の出現は発熱性好中球減少症(FN)の可能性を示唆し、速やかな受診が必要です。「熱が出たら月曜日に来院」ではなく「すぐに電話連絡してください」という具体的な行動指示を伝えておくことが、重篤化防止につながります。
がん研有明病院のチームロンサーフの取り組みでは、外来導入時から医師・看護師・薬剤師が連携し、患者ごとの有害事象観察と電話対応体制を整備することの重要性が示されています。単職種での対応ではなく、チームとして脱毛を含む副作用全体を管理する体制を構築することが求められます。
がん研有明病院「チームロンサーフ研修テキスト(第2版)」−医師・看護師・薬剤師の役割分担と副作用マネジメントの実際が詳述されています
脱毛が発現した際、患者の多くが最初に直面するのは経済的な問題です。ウィッグ(かつら)の購入費用は、医療用でも数万円から十数万円と決して安くはありません。ここで医療従事者として伝えられる有用な情報があります。
医療用ウィッグの費用は医療費控除の対象になりうる場合があります。国税庁の一般的な見解では、美容目的のウィッグは医療費控除の対象外ですが、がん治療に伴う脱毛対策として購入した「医療用ウィッグ」については、一部の自治体や税務署が医療費控除を認めるケースがあります。正確な判断は税務署への確認が必要ですが、患者がこの選択肢を知らずに負担を抱えていることは少なくありません。
また、自治体によっては「がん患者在宅療養支援事業」などの名称でウィッグ購入費用の助成制度(上限2〜3万円程度)を設けているところもあります。患者が居住する自治体のがん支援担当窓口を確認するよう案内するだけで、患者の経済的負担を軽減できる可能性があります。
経済的な支援情報は医師よりも薬剤師・看護師・医療ソーシャルワーカー(MSW)が案内しやすい内容です。脱毛という副作用を「身体的なケア」と「経済的なサポート」の両面から支援する体制があることを患者に知ってもらうだけで、治療への向き合い方が変わることがあります。これはロンサーフの脱毛に限らず、化学療法全般で共通して活用できる視点です。
脱毛に関する不安が治療継続の障壁になっている場合は、がん相談支援センターへの早期紹介も一つの選択肢です。患者が孤独に悩まないよう、チームとして情報を共有する体制を整えておきましょう。