プラジカンテルを「ネットで手軽に買える」と思っている医療従事者の約7割が、無承認医薬品を購入するリスクを正確に把握していません。
プラジカンテル(商品名:ビルトリシド)は、日本国内では処方箋医薬品に分類されています。これは、医師の処方箋なしに入手・使用することが原則として認められていないことを意味します。
医療従事者であっても、通販サイト(特に海外の個人輸入代行業者)からプラジカンテルを購入する場合は注意が必要です。薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)では、承認を受けていない医薬品の販売・授与を禁止しており、違反すると3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられる場合があります。
つまり「医療従事者だから大丈夫」ではありません。
特に問題となりやすいのが、「獣医薬品として販売されているプラジカンテルを人体に使用する」ケースです。動物用医薬品を人間に使うこと自体、適応外使用として大きなリスクを伴います。処方箋が必要です。
また、海外製のプラジカンテルを個人輸入する場合も、自己使用目的の範囲(1〜2ヶ月分)を超えると薬機法上の問題が生じる可能性があります。患者への提供は当然NGです。
インターネット上には「プラジカンテル」を謳った製品が複数流通しています。しかし、その多くは日本の薬機法上の承認を受けていない製品です。
見分けるためのポイントを以下に整理します。
これは使えそうです。
日本国内の正規品「ビルトリシド錠600mg」はバイエル薬品が製造しており、医療機関・薬局を通じた正規流通に限定されています。通販で「ビルトリシド」が販売されている場合、それが正規品である可能性は極めて低いと考えてください。
怪しいサイトの特徴として「在庫あり・即日発送」「処方不要」「格安」の3点が揃っている場合は特に要注意です。厚生労働省のホームページでも、インターネットを通じた無承認医薬品の購入に対して注意喚起がなされています。
厚生労働省:医薬品の個人輸入・インターネット販売に関する注意情報
医療従事者がプラジカンテルを適正に使用するためには、正規の流通ルートを通じて入手することが大原則です。
日本国内での正規入手ルートは以下のとおりです。
正規ルートが基本です。
特に、熱帯医学・渡航医療を専門とする医療機関では在庫を保有していることが多く、必要時に迅速に対応できます。国立国際医療研究センター(NCGM)や各都道府県の感染症対策拠点病院では、寄生虫疾患に対する診療と薬剤提供が可能です。
また、患者が海外渡航後に感染が確認された場合など、緊急性が高いケースでは厚生労働省への「未承認薬使用に係る手続き」を経ることで対応できる場合があります。手続きが条件です。
国立国際医療研究センター:熱帯病・渡航医学に関する情報ページ
プラジカンテルは疾患の種類によって用量・用法が大きく異なります。これが正しく把握されていないと、治療効果が著しく下がります。
主な疾患別の用法・用量を以下に示します。
| 疾患名 | 用量(体重kg当たり) | 投与回数・間隔 |
|---|---|---|
| 住血吸虫症(マンソン・日本住血吸虫) | 40mg/kg | 1日2〜3回分割、1日間 |
| 肺吸虫症 | 25mg/kg | 1日3回、2日間 |
| 肝吸虫症・腸吸虫症 | 25mg/kg | 1日3回、1〜2日間 |
| 条虫症(テニア属) | 5〜10mg/kg | 単回投与 |
| 神経嚢虫症 | 50mg/kg/日 | 1日3回、15日間(アルベンダゾールと併用する場合も) |
意外ですね。
神経嚢虫症への使用では、駆虫後に炎症反応(Jarisch-Herxheimer反応類似)が起きることがあります。これを防ぐためにステロイドを併用するプロトコルが多くの施設で採用されています。現場では単独投与だけで終わらせないことが重要です。
また、プラジカンテルはデキサメタゾンとの薬物相互作用があり、デキサメタゾンがプラジカンテルの血中濃度を約50〜75%低下させることが報告されています。ステロイド使用中の患者に投与する際は、用量調整または投与タイミングの工夫が必要です。血中濃度低下に注意すれば大丈夫です。
医療現場ではあまり語られませんが、プラジカンテルは動物用医薬品としても広く流通しています。犬・猫の条虫駆除薬(ドロンタールなど)にもプラジカンテルが含まれており、通販サイトで比較的容易に入手できます。
ここに大きな落とし穴があります。
ペット用のプラジカンテル製品と人用の製品では、以下の点が異なります。
厳しいところですね。
実際、海外の感染症流行地域ではプラジカンテルの入手が困難な場合があり、やむを得ず獣医薬品を転用するケースが報告されています。しかしこれはあくまで医療資源が極度に不足した状況での緊急対応であり、日本国内の通常の医療環境では絶対に行うべきではありません。
「安いから」「すぐ手に入るから」という理由で獣医薬品を人体に使用することは、患者への重大な健康被害リスクに直結します。場合によっては医療従事者としての資格停止処分や民事上の損害賠償責任を負う可能性もあります。医療倫理と法令遵守の両面で問題です。
正しい医薬品知識を持った上で、適切なルートでプラジカンテルを入手することが、医療従事者としての最低限の責務と言えます。
厚生労働省検疫所FORTH:海外で医薬品を購入する際の注意事項