インスリングラルギン空打ちの単位と正しい手順

インスリングラルギンの空打ちは「2単位」と思っていませんか?実はU-300製剤では3単位が必要で、製剤の種類によってルールが異なります。医療従事者が知っておくべき空打ちの正しい単位数・手順・根拠を解説します。

インスリングラルギンの空打ち単位と正しい手順

空打ちを「とりあえず2単位」で済ませていると、U-300製剤では確認が不十分になり、投与誤差で患者の血糖コントロールが崩れるリスクがあります。


📋 この記事の3ポイント要約
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製剤によって空打ち単位が違う

U-100製剤(ランタス)は2単位が標準だが、U-300製剤(ランタスXR)は3単位での空打ちが推奨される。同じ「インスリングラルギン」でも一律ではない。

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空打ちの目的は「確認」であって「排気」だけではない

気泡除去だけでなく、注射針とペン本体が正常に機能しているかどうかの動作確認が主目的。針先から液が出なければ再操作が必要。

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空打ちをしないと投与量が変わる

空打ちを省くと、設定単位より少ない量しか投与されない可能性があり、血糖降下効果が得られないまま「インスリン抵抗性」と誤判断されるリスクもある。


インスリングラルギン空打ちの推奨単位数:U-100とU-300の違い

「空打ちは2単位」という認識は、インスリン製剤全般に通用するわけではありません。これが一般的に知られていない落とし穴です。


インスリングラルギンU-100製剤(ランタス®ソロスター)では、メーカー推奨の空打ちは2単位です。 これは、細い針先からインスリンが確実に噴出しているかを肉眼で確認するために必要な最低量とされています。1単位では噴出量が微小すぎて目視確認が難しいケースがあるためです。 med.skk-net(https://med.skk-net.com/useful/med/dm/item/dm-no3.pdf)


一方、インスリングラルギンU-300製剤(ランタスXR®ソロスター)は、3単位での空打ちが推奨されています。 理由はU-300が300単位/mLという3倍濃縮製剤であり、1単位あたりの液量がU-100の3分の1(約0.0033 mL)と非常に少ないためです。2単位では針先からの噴出量が極めて微量となり、目視での確認が不十分になるおそれがあります。 kirishima-mc(https://kirishima-mc.jp/data/wp-content/uploads/2023/04/4499a6ae2ca9952d3a70c63d74443d8b.pdf)


つまり製剤の種類で空打ち単位が変わります。


製剤名 濃度 推奨空打ち単位 1本あたりの総単位
ランタス®ソロスター(U-100) 100単位/mL 2単位 300単位
ランタスXR®ソロスター(U-300) 300単位/mL 3単位(2単位でも可とするメーカー見解もあり) 450単位
インスリングラルギンBS注ミリオペン「リリー」(U-100相当) 100単位/mL 2単位 300単位


note(https://note.com/pazumaru/n/n03324e12ae8f)


ランタスXRの空打ちについてメーカー(サノフィ)の公式取扱説明書も参照するとよいでしょう。


サノフィ公式:ランタスXR注ソロスター 取扱説明書(空打ち手順・単位の根拠)


インスリングラルギン空打ちの正しい手順と実施タイミング

空打ちは「毎回注射の前」に実施するのが原則です。 一度のセッション内で使い回すのは手技として推奨されません。 pro.campus(https://pro.campus.sanofi/dam/Portal/EMR-JP/products/lantus-xr/index/PDF/MAT-JP-2008091-20-10-2021.pdf)


ペン型注入器(ソロスター等)での標準的な手順は以下の通りです。 kobe-kishida-clinic(https://kobe-kishida-clinic.com/diabetes/insulin-air-shot-units-procedure/)


  1. 新しい注射針をペン先にしっかり取り付ける(アルコール綿で針基部を清拭)
  2. ペンを針先を上に向けて立てる
  3. カートリッジ内に見える気泡を指で軽くはじいて上部に集める
  4. 投与量ダイヤルを2単位(U-100の場合)または3単位(U-300の場合)に設定する
  5. 注入ボタンを最後まで押し込み、針先からインスリンが噴出するのを目視確認する
  6. 液が出ない場合は注射針を交換し、最大4回まで空打ちを繰り返す
  7. medical.lilly(https://medical.lilly.com/jp/answers/71740)


針先から液が出ることを確認できれば完了です。 medical.lilly(https://medical.lilly.com/jp/answers/71739)


重要な注意点として、「空打ちで取り除けない小さな気泡が残っていても投与量には影響しない」ことが確認されています。 微小気泡を完全に取り除こうとして何度もたたいたり、必要以上に空打ちを繰り返す必要はありません。 medical.lilly(https://medical.lilly.com/jp/answers/71738)


インスリングラルギン空打ちを省くと起こる投与誤差のリスク

空打ちを省略することの臨床的なリスクは、単なる「手順の抜け」ではありません。深刻です。


ペン型注入器では、針を取り付けた直後や新しいカートリッジに交換した直後は、ゴムピストン(ガスケット)が密着するまでピストン棒が移動しません。そのため、初回の注射では設定した単位よりも少ないインスリンしか実際には射出されない現象が起きます。 これは空打ちで事前にピストン棒を密着させることで初めて防げます。 medical.lilly(https://medical.lilly.com/jp/answers/71739)


また、針先が詰まっているケースも実臨床では起こります。その場合、空打ちを省くと投与時に「押し込んだのに打てていない」という事態が発生します。設定単位が0になっているのに気づかないまま注射を終えてしまうリスクがあります。これは危険です。


結果として、血糖値が想定外に高い状態が続き、「インスリン量が不足しているのではないか」という判断に誤って至るケースがあります。実際には空打ち省略による投与量不足であっても、不必要にインスリン増量が検討されてしまう可能性があります。空打ちは手間ではなく安全確認の要です。


参考:インスリングラルギンBS(バイオ後続品)の空打ちに関するメーカーFAQも確認しておくと指導に役立ちます。


日本イーライリリー公式FAQ:インスリングラルギンBS注ミリオペン「リリー」の空打ちの薬液の出方について(医療関係者向け)


ランタスXR空打ちコスト:3単位消費で1日約12円の損失という現実

「空打ちはもったいない」と感じる患者は少なくありません。この疑問には数字で答えることが、医療従事者の指導力を高めます。


ランタスXR®1本(450単位)の薬価は約1,910円(2026年時点)です。1回あたりの空打ちで3単位を消費すると、1回あたり約12.7円のインスリンが廃棄されることになります。 これをコーヒー1杯に例えれば、30回分の空打ちでコンビニコーヒー1杯分(120円)程度の費用が発生します。 note(https://note.com/pazumaru/n/n03324e12ae8f)


ただし逆算すると、450単位のランタスXRを1日1回30単位で使用した場合、純粋な投与分は30単位×15日=450単位ですが、1日3単位の空打ちロスを加えると実際には(30+3)×約13.6日で消費されます。1本あたり約1〜2日分の差が生じます。処方日数の計算に影響するため、薬剤師・医師が処方本数の目安を患者に伝える際は空打ち分の消費を加味することが重要です。 hoyukai.or(https://www.hoyukai.or.jp/class/files/193.pdf)


この情報を知っているかどうかで処方本数の説明精度が変わります。


製剤 1回空打ち単位 1回あたりコスト 月間(30回)の損失
ランタス(U-100) 2単位 約4.2円 約126円
ランタスXR(U-300) 3単位 約12.7円 約381円


note(https://note.com/pazumaru/n/n03324e12ae8f)


患者に「もったいない」と言われたときは「その12円で針の詰まりを早期発見し、1回分の注射ミスを防げる保険料です」と説明すると納得を得やすいです。


インスリングラルギン空打ちの単位・指導での独自視点:「確認できた」の基準を患者と統一する重要性

空打ちは「液が出たかどうか」の確認が目的ですが、その「確認できた」という判断基準が患者ごとにばらつきがちであることは、あまり指摘されない盲点です。


また、自己注射を始めたばかりの患者は、「空打ちしたつもりが投与量ダイヤルを動かしていなかった」という手技ミスも起こります。空打ちの前にダイヤルが正しい単位(U-100:2単位、U-300:3単位)に設定されているかを確認してからボタンを押す流れを、指導時に反復練習させることが重要です。


確認できたことを毎回記録する習慣も、長期的な血糖管理の安定につながります。


参考として、三和化学研究所のDMトピックスでは空打ちの根拠と2単位の理由が医療者向けにわかりやすくまとめられています。


三和化学研究所 DMトピックスVol.3:インスリン空打ちが2単位である根拠と手技指導の要点