期待度数が5未満のセルが1つでもあると、カイ二乗検定のp値は約20%過小評価されることがあります。
フィッシャーの直接法(Fisher's exact test)は、2つの名義変数の間に関連があるかどうかを調べる統計手法です。医療研究では「治療群と対照群で有害事象の発生率に差があるか」「ある疾患の有無と検査結果の陽性・陰性に関連があるか」といった場面で頻繁に登場します。
カイ二乗検定と非常に似た目的で使われますが、両者の使い分けには明確なルールがあります。カイ二乗検定は「期待度数がすべてのセルで5以上」という条件が満たされている場合に適切です。一方、どれか1つのセルでも期待度数が5を下回ると、カイ二乗検定の近似精度が著しく低下し、p値が実態より小さく(または大きく)算出されるリスクが生じます。
つまり、小さなサンプルで精度を保つ手法がフィッシャーの直接法です。
期待度数の確認方法は比較的シンプルです。2×2の分割表であれば、「(行合計 × 列合計)÷ 総計」という計算式で各セルの期待度数が求められます。たとえば総症例数が20人で、治療群10人・対照群10人、陽性8人・陰性12人という構成であれば、治療群×陽性のセルの期待度数は(10×8)÷20=4となり、これはすでに5を下回ります。この時点でフィッシャーの直接法を選択する必要があります。
医療論文では症例数が限られるケースが珍しくありません。希少疾患の研究や単施設パイロット研究では、n=15〜30程度のデータセットがよく使われます。そのような場面ではほぼ自動的にフィッシャーの直接法が適切な選択になると覚えておけば大丈夫です。
これは使えそうです。
なお、フィッシャーの直接法は2×2の分割表に限定されるものではなく、r×cの多次元分割表にも拡張できます(ただしSPSSでの取り扱いは後述します)。医療統計の教科書では2×2の場合が主に解説されていますが、3群以上を比較する際も期待度数の確認は同様に必要です。
参考:統計的仮説検定とフィッシャーの正確確率検定の解説(日本疫学会)
日本疫学会 疫学用語の基礎知識
SPSSでフィッシャーの直接法を実行するには、メニューの「分析」→「記述統計」→「クロス集計表」を選択するところから始めます。
まず変数の配置を確認します。行(Row)と列(Column)にそれぞれ分析したいカテゴリ変数を割り当てます。たとえば「群(治療群・対照群)」を行に、「転帰(改善あり・改善なし)」を列に入れるといった形です。この段階では特別な設定は不要で、通常のクロス集計と同じ操作です。
次に「統計量」ボタンをクリックします。
ダイアログが開いたら「カイ二乗」にチェックを入れます。同時に「Fisher の正確確率検定」という選択肢が表示されますが、実は2×2の分割表であれば「カイ二乗」にチェックを入れるだけで、出力結果に自動的にフィッシャーの正確確率検定の結果が含まれます。これはSPSSの仕様であり、多くのユーザーが「Fisher の正確確率検定」を別途チェックしなければならないと誤解しています。
2×2の場合はカイ二乗にチェックだけで十分です。
「セル」ボタンからは「観測度数」「期待度数」にチェックを入れておくことを強くおすすめします。期待度数を出力させることで、フィッシャーの直接法を使う根拠(=5未満のセルがある)を論文の解析プロセスとして記録できます。これは査読者から指摘を受けたときの根拠にもなります。
設定が完了したら「OK」をクリックして実行します。出力ウィンドウに「カイ二乗検定」というテーブルが表示され、その中に「Fisher の正確確率検定」の行が現れます。「正確有意確率(両側)」の列に記載された値がp値です。これが論文中で報告するべき数値になります。
操作自体はシンプルです。
なお、SPSSのバージョンによってメニューの表記が微妙に異なる場合があります。バージョン25以降では「正確確率検定」モジュールが別途インストールされていないとフィッシャーの直接法が実行できないケースもあるため、所属機関のSPSSライセンス内容を事前に確認しておくと安心です。
SPSSのクロス集計表を実行すると、「カイ二乗検定」テーブルに複数の行が表示されます。医療研究でフィッシャーの直接法を選択した場合に注目すべきは「Fisher の正確確率検定」の行です。
| 検定の種類 | 説明 |
|---|---|
| Pearson のカイ二乗 | 期待度数が5以上の場合に使用 |
| 連続修正(Yates の補正) | 2×2で使われるが現在は推奨されないことも多い |
| Fisher の正確確率検定 | 期待度数が5未満のセルがある場合に使用 |
| 線形対線形の関連 | 順序変数の関連性検定(今回は対象外) |
「正確有意確率(両側)」が通常論文で報告するp値です。「正確有意確率(片側)」は方向性に仮説がある場合(例:治療群の方が対照群より必ず良い、という方向性)のみ使用します。医療研究の多くは両側検定が標準であるため、片側のp値を使うケースは限られています。
両側検定が基本です。
p値が0.05未満であれば「統計的に有意な関連がある」と判定する場面が多いですが、医療統計においてp値だけで結論を出すことは推奨されません。2019年にAmerican Statistical Associationが発表した声明でも「p < 0.05を唯一の基準にしないこと」が強調されています。効果量(オッズ比・相対リスクなど)と95%信頼区間も合わせて報告することが現在の標準です。
フィッシャーの直接法のp値と同時に、SPSSのクロス集計表から「リスク」ボタンをチェックしてオッズ比(Odds Ratio)を出力させることを習慣にしましょう。オッズ比が1.0から大きく離れていて、かつ95%信頼区間が1.0をまたいでいなければ、臨床的にも意味のある差がある可能性が高いと判断できます。
結論はp値だけでは出せません。
参考:p値の正しい解釈と統計報告の注意点について
厚生労働省 臨床研究法に基づく統計解析関連資料
フィッシャーの直接法をSPSSで実施する際、医療研究者がよく陥るミスが3つあります。これらを事前に把握しておくことで、解析のやり直しや論文の修正を防ぐことができます。
ミス①:2×2以外の分割表でそのままフィッシャーの直接法を使おうとする
3群以上の比較(例:治療A・治療B・対照群の3群)を1つのクロス集計に含めると、SPSSはフィッシャーの直接法を自動出力しません。この場合、Freeman-Halton検定(r×c分割表への拡張)を使うか、群を2群ずつに分けて複数回フィッシャーの直接法を実施する方法が取られます。後者の場合、多重比較の補正(BonferroniやHolm法)が必要になる点も覚えておく必要があります。
ミス②:期待度数を確認せずに検定手法を選んでいる
「サンプルが少ないからフィッシャーの直接法を使えばよい」という思い込みは危険です。期待度数がすべて5以上であれば、カイ二乗検定の方が適切な場面もあります。必ずSPSSの出力で期待度数を確認し、その結果に基づいて検定手法を選択することが原則です。
期待度数の確認が条件です。
ミス③:p値の報告形式が不正確
論文中に「p = 0.000」と記載するのは不適切です。SPSSは小数点以下3桁まで表示するため「0.000」と出力されることがありますが、これは「p < 0.001」と記載するのが正しい表現です。また、フィッシャーの直接法を使った場合は「Fisher's exact test」と明示することが査読者から求められます。「カイ二乗検定を実施した(p = .023)」という記述では検定手法が不明確になり、指摘を受けます。
これらは基本的なルールですが、見落としが多いポイントです。論文提出前にチェックリストとして確認する習慣をつけると、査読での指摘を大幅に減らすことができます。
参考:医療統計の報告ガイドラインCONSORT/STROBE解説
EQUATOR Network – STROBE reporting guideline(英語)
フィッシャーの直接法は「少ないデータでも使える検定」として認識されがちです。しかし、これは誤解を生みやすい表現です。
フィッシャーの直接法は「少ないサンプルでも正確なp値を算出できる」という意味では優れていますが、「サンプルが少なくてもよい」という意味ではありません。むしろ、サンプル数が極端に少ない場合はp値が有意にならない(検出力が低い)リスクが高くなります。
検出力の確保は別問題です。
たとえばn=10の研究で2群を比較する場合、フィッシャーの直接法で統計的有意差が出るには、2群間の差が非常に大きくなければなりません。一方、その効果量が臨床的に意味のある差であれば、事前のサンプルサイズ計算でもっと多くの症例が必要だったはずです。
つまり、フィッシャーの直接法を使うことが決まった段階で、研究デザインの段階に立ち返って「このサンプル数で十分な検出力があるか」を確認することが重要です。一般的に検出力は80%以上が推奨されており、G*Power(無料ソフト)などのツールを使ってフィッシャーの直接法を前提としたサンプルサイズ計算が可能です。
G*Powerでの操作は「Tests」→「Exact」→「Proportion: Inequality, Two Groups (Fisher's Exact Test)」を選択し、有意水準α=0.05、検出力1−β=0.80、期待されるオッズ比などを入力することで必要なサンプル数が算出されます。研究計画書の段階でこの計算を済ませておくことで、倫理審査委員会での指摘を避けることができます。
事前計算が原則です。
さらに見落とされがちな点として、「後ろ向き研究でデータがすでに揃っている場合」にも事後的な検出力計算(post-hoc power analysis)を論文に記載するよう求められることがあります。「フィッシャーの直接法でp = .08だったが、検出力は62%にとどまり、有意差なしは否定できない」という記述が適切なケースです。p値だけで結論を出してしまうと、実際には見逃し(偽陰性)が多い研究として評価されるリスクがあります。
医療研究において統計手法の選択は「解析の正確さ」だけでなく、「研究デザイン全体の妥当性」と切り離せません。フィッシャーの直接法をSPSSで実行するスキルと並行して、サンプルサイズ設計の基礎知識も身につけておくことで、論文の完成度が大きく向上します。
参考:G*Powerを用いたサンプルサイズ計算の解説(海外統計ソフト公式)
G*Power公式サイト(Heinrich Heine University Düsseldorf)

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