ダルテパリンは低分子量ヘパリン(LMWH)の一種で、平均分子量が約5,000です。これに対して未分画ヘパリンの平均分子量は12,000~15,000であり、明確な分子量の違いがあります。
参考)https://med.kissei.co.jp/dst01/pdf/di_fr.pdf
この分子量の違いが、血液凝固阻止メカニズムに重要な影響を与えます。ダルテパリンの抗凝固作用は、アンチトロンビンⅢとの相互作用が主な作用機序です。特に重要なのは、分子量約5,000を境として、ヘパリンの各種凝固因子に対する阻害作用が大きく異なることです。
分子量と作用の関係
そのため、ダルテパリンは抗第Xa因子活性が従来のヘパリンと同等でありながら、出血との相関性が示唆される活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長作用(抗トロンビン作用と高い相関性)は弱いという特徴があります。
未分画ヘパリンがアンチトロンビンを介してトロンビン(IIa)を阻害する際には、アンチトロンビンとトロンビン双方に結合する必要があります。一方、第Xa因子を阻害するためには、アンチトロンビンに結合するのみで十分です。
参考)https://jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide07_08.pdf
低分子ヘパリンであるダルテパリンは、糖鎖が短いためトロンビンと結合できず、主に第Xa因子のみを阻害します。この作用機序の違いにより、以下のような臨床的特徴が生まれます:
参考)https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide07_08.pdf
ダルテパリンの作用特性
参考)https://www.jsth.org/publications/pdf/tokusyu/19_2.187.2008.pdf
未分画ヘパリンの作用特性
薬物動態の面でも、ダルテパリンとヘパリンには明確な違いがあります。低分子ヘパリンの半減期は約2時間程度であり、ヘパリンの30-90分より長く効果が持続します。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/8757/
この半減期の違いにより、投与方法にも差が生じます。
ダルテパリンの投与特性
未分画ヘパリンの投与特性
ダナパロイドナトリウム(ヘパリン類製剤)の場合、血漿中半減期は約25時間と非常に長く、1日1~2回の投与で効果が得られます。これは低分子ヘパリンやダルテパリンとは異なる特徴です。
重症患者を対象とした大規模臨床試験「PROTECT trial」では、ダルテパリンと未分画ヘパリンの比較が行われました。この試験では3,764例を対象に、血栓予防効果と安全性が検討されています。
参考)https://www.nejm.jp/abstract/vol364.p1305
PROTECT試験の主要結果
特に注目すべきは、事前に規定したper-protocol解析において、ダルテパリン群でヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)を呈した患者が少なかったことです(ハザード比0.27,95%信頼区間0.08~0.98,P=0.046)。
がん患者の静脈血栓塞栓症治療においても、ダルテパリンは重要な役割を果たしています。「Caravaggio試験」では、直接経口抗凝固薬アピキサバンとダルテパリンの比較が行われ、アピキサバンはダルテパリンに対して非劣性であることが示されました。
参考)https://www.carenet.com/news/journal/carenet/49933
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は、ヘパリン使用時の重篤な副作用として知られています。HITは免疫学的機序により引き起こされる合併症で、血小板数の著明な減少と血栓症を特徴とします。
参考)https://www.toseki.tokyo/blog/touseki-kougyoukoyaku/
HITの発症パターン
低分子ヘパリンであるダルテパリンは、未分画ヘパリンと比較してHITの発症リスクが低いとされています。PROTECT試験の結果でも、ダルテパリン群でHIT発症患者が有意に少なかったことが報告されています。
その他の副作用比較
透析治療における使用では、低分子ヘパリンは出血傾向や出血症状の有無に関わらず使用できる抗凝固剤として位置づけられており、出血傾向ないしは軽度~中等度の出血症状を有する患者に特に適しているとされています。
参考)https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/11-1/11-1_9.pdf