糖尿病合併の高血圧患者にラジレスを処方すると、血圧が下がる前に腎機能が悪化する場合があります。
アリスキレンフマル酸塩の商品名は「ラジレス錠150mg」です。 2009年7月、ノバルティスファーマが直接的レニン阻害剤(DRI)として日本で初めて製造販売承認を取得しました。 10余年ぶりの新しい作用機序の降圧薬として注目を集め、その後オーファンパシフィックが販売を引き継いでいます。kegg+1
薬効分類コードは2149に分類されます。 ATCコードはC09XA02であり、「その他のレニン・アンジオテンシン系作用薬」カテゴリに属します。 つまり、ARBやACE阻害薬とは異なる、RAS系の最上流を標的にした薬剤です。kegg+1
現在の販売規格は150mgのみで、1錠中にアリスキレンフマル酸塩165.75mg(アリスキレンとして150mg)を含有します。 添加剤にはポビドン、クロスポビドン、セルロースなどが含まれており、錠剤の安定性に配慮した製剤設計となっています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00057011.pdf
参考:ラジレス錠150mgの添付文書(CareNet掲載)。成分・禁忌・副作用の詳細を確認できます。
ラジレスはRAS系の「起点」であるレニンを直接阻害します。 ARBがアンジオテンシンII受容体を、ACE阻害薬がACEを標的にするのに対し、アリスキレンはアンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンIへの変換そのものを遮断します。 これがDRI(Direct Renin Inhibitor)という分類名の由来です。ubie+1
作用の上流を止めることで、ACE以外の経路で産生されるアンジオテンシンIIも同時に抑制できるとされています。 ARBやACE阻害薬では遮断しきれないバイパス経路を補完する可能性が期待されました。 意外ですね。
参考)https://www.japic.or.jp/mail_s/pdf/23-09-1-07.pdf
ただし、実際の臨床データでは、単独の降圧効果はARBと同程度とされています。 つまり、作用機序の「上流性」が必ずしも降圧効果の優位性に直結するわけではないのが現実です。
参考)10余年ぶりの新しい作用機序の降圧剤 「ラジレス錠150mg…
禁忌の理解が不十分だと、患者に非致死性脳卒中・腎機能障害・高カリウム血症のリスクを与えます。 これは原則です。
2012年6月、PMDAはACE阻害薬またはARBを投与中の糖尿病患者へのラジレス使用を禁忌と設定しました。 この改訂はALTITUDE試験の中止を受けたもので、糖尿病合併の高血圧患者においてアリスキレンの上乗せ投与が心血管・腎アウトカムを改善しなかったことが根拠となっています。yakuji.co+1
欧州では同年2月に、米国では4月に同様の禁忌設定が行われており、日本は他国より数か月遅れての対応でした。 注目すべきは、日本の添付文書のみ「他の降圧治療をしても血圧コントロールが著しく不良な患者を除く」というただし書きが盛り込まれている点です。 この例外規定は欧米にはありません。
参考)https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=42678
禁忌に追加されている患者は以下の通りです。
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参考:PMDAによるラジレスの再審査報告書。副作用発現割合の詳細データが記載されています。
生物学的利用率は約2〜3%です。 これは経口薬の中でも特に低い数値で、例えばアムロジピンの約65%と比べると、体内に入る量の差は約20倍以上にのぼります。orphanpacific+1
食後投与では、空腹時投与と比べてCmaxが75%、AUCが55%それぞれ低下します。 これはかなり大きな影響です。
つまり、食事のたびに吸収が半分以下になるということです。 服薬指導では「食前(空腹時)投与」を意識的に伝える必要があります。 実際の服薬指導でこの点が伝わっていないケースは少なくなく、薬剤師が記録に残す形で明示することが推奨されます。
| 投与条件 | Cmax変化 | AUC変化 |
|---|---|---|
| 空腹時(基準) | 基準値 | |
| 食後投与 | −75%低下 | −55%低下 |
腎機能が低下するほどトラフ時の血漿中アリスキレン濃度が上昇することも確認されています。 eGFRが60mL/min/1.73m²未満の患者では、ACE阻害薬・ARBとの併用について治療上やむを得ない場合を除き回避することが推奨されています。pmda+1
アリスキレンとACE阻害薬またはARBを併用すると、単剤使用と比較して高カリウム血症の相対リスクが1.58〜1.67倍に上昇します。 カナダ・トロント大学の検討で示されたこのデータは、無作為化対照比較試験のメタ解析に基づくものです。 具体的には、ACE阻害薬またはARB単剤と比較した相対リスクは1.58(95%CI:1.24〜2.02)、アリスキレン単剤との比較では1.67(95%CI:1.01〜2.79)でした。
参考)直接的レニン阻害薬と他のRAS阻害薬の併用で高カリウム血症増…
高カリウム血症は、最悪の場合致死的な心室細動を引き起こします。 痛いですね。 血清カリウム値のモニタリングを怠ると、患者に重大なリスクを与えかねません。
オーファンパシフィックのFAQでも、ラジレスをRAS阻害薬と併用する際は「血清カリウム値を定期的にモニターするなど高カリウム血症に注意が必要」と明記されています。 再審査報告書によると、ラジレス投与例における高カリウム血症の発現割合は0.6%(333例中2例)と報告されています。 0.6%は数字だけ見ると低く見えますが、降圧薬として広く処方される性質上、絶対数としての発症件数は無視できません。pmda+1
RAS阻害薬を複数使っている患者の診療録を確認し、アリスキレン併用の有無を定期的にレビューすることが実践的な対策です。
参考:アリスキレンとRAS阻害薬の併用リスクに関するカナダ・トロント大学の解析概要。
CareNet.com 直接的レニン阻害薬と他のRAS阻害薬の併用で高カリウム血症リスク(2012年)
承認から15年以上経過しても、アリスキレンフマル酸塩の処方数はARBやCCBと比べて圧倒的に少ないままです。 理由の一つは前述の低い生物学的利用率(約2〜3%)であり、製剤上のハードルが高いことが挙げられます。carenet+1
もう一つの大きな理由は、2012年の禁忌改訂で「使いにくい薬」というイメージが定着したことです。 厳しいところですね。 ALTITUDE試験の中止というネガティブな出来事が医師の処方行動に影響を与え、糖尿病合併患者が多い循環器・腎臓内科では特に処方回避の傾向が強まりました。
参考)糖尿病患者への高血圧治療薬「ラジレス」とACE阻害薬またはA…
現在、ラジレスはオーファンパシフィックが販売しています。 オーファン(希少疾病用)医薬品メーカーが担うという形態自体が、この薬の位置づけを象徴しています。 ただし、他の降圧薬で効果不十分なケースや、CYP3A4に依存する薬物相互作用を回避したい場面では、今も選択肢の一つとして残っています。
処方を検討する場合は、CYP3A4基質薬・P糖蛋白質(ABCB1)基質薬との相互作用を事前にチェックすることが条件です。 具体的には電子薬歴や「Dif-DI」などの相互作用チェックツールで合剤スクリーニングを行う一手間が、処方ミスの防止につながります。
参考:PMDAによるラジレス錠の承認審査報告書。作用機序・薬物動態・安全性の詳細データを収録。