アリケイスの薬価は1日1回吸入で約3万8千円。実は高額療養費を適用すると患者負担は月1万8千円台に収まるケースがある。

アリケイス吸入液590mg(一般名:アミカシン硫酸塩)は、2021年5月19日に薬価収載された難治性肺MAC症(マイコバクテリウム・アビウムコンプレックスによる肺非結核性抗酸菌症)に対する国内初の治療薬です。収載当初の薬価は1瓶(590mg/8.4mL)あたり42,408.40円でした。これは1日1回の吸入で消費されるため、単純計算で1日あたり約4万2千円という高額な薬剤です。
薬価収載時は原価計算方式で算定され、有用性加算(II)として10%の補正加算が上乗せされていました。その後、本剤は費用対効果評価の対象品目として指定されます。
費用対効果評価の結果、国立保健医療科学院(NIPH)による公的分析では、多剤併用療法単独と比較したICER(増分費用効果比)が1,000万円/QALY以上と算出され、「費用増」の評価となりました。これを受け、2022年12月14日の中医協総会で費用対効果評価案が承認され、薬価は1.8%引き下げられることになります。
価格調整の詳細は以下のとおりです。有用性系加算部分の価格調整係数(γ)が0.1、営業利益部分の価格調整係数(θ)が0.5に設定され、2023年6月1日より改定薬価38,437.90円が適用されました。収載時から現在にかけての変動をまとめると、下表のようになります。
| 時期 | 1瓶薬価 | 概要 |
|------|---------|------|
| 2021年5月(収載時) | 42,408.40円 | 原価計算方式・有用性加算(II)10% |
| 2023年6月(費用対効果調整後) | 38,437.90円 | ICER 1,000万円/QALY以上で価格調整 |
| 2026年4月1日以降(最新) | 38,437.90円 | 現行維持 |
つまり現行薬価は38,437.9円が原則です。1か月(30日分)の薬剤費だけで約115万円に達する計算になり、保険適用があるとはいえ、正確な薬価と変遷を把握しておくことは、患者への医療費説明において非常に重要な前提知識となります。
参考:費用対効果評価に基づく価格調整の公式資料(厚生労働省)
厚生労働省|アリケイスの費用対効果評価結果に基づく価格調整について(中医協総-4-2)
アリケイスの薬価は1日あたり38,437.9円ですから、月30日分の薬剤費は約115万円に上ります。当然のように高額療養費制度の対象となりますが、実際の患者負担額はこれとはまったく異なります。これが重要なポイントです。
高額療養費制度では、1か月の医療費自己負担が一定の限度額を超えた場合に超過分が払い戻されます。特に70歳以上で年金収入のみ(住民税非課税世帯または一般区分)に該当する患者では、外来移行後の月あたり自己負担が約18,000円(年間上限144,000円)に収まるケースが多く、これは患者が「薬が高すぎて無理」と判断する前に必ず伝えるべき情報といえます。
一方、69歳以下・年収約370〜770万円の標準区分(区分ウ)の患者では、自己負担上限の計算式は「80,100円+(総医療費−267,000円)×1%」となり、アリケイス導入後は月8万〜9万円台の負担が初月に生じます。ただし、過去12か月以内に3回以上上限に達した場合の「多数回該当」では、4回目以降の上限額が44,400円まで下がる点も見落とせません。
また、健保組合によっては付加給付制度が設定されており、月の自己負担が25,000円を上限とする制度が適用される患者も存在します。高額療養費制度だけでなく、患者が加入している健康保険の付加給付の有無を確認することも重要です。
実際の対応として、アリケイス導入が決まった患者には、受診時に限度額適用認定証の取得を促しておくことで、窓口での一時的な高額支払いを回避できます。これは患者の治療継続率向上にも直結する実務的な支援です。
なお、アリケイスを提供するインスメッド合同会社のアリケアサポートサイト(aricare.net)には医療費簡易計算ツールが提供されており、患者の年齢・年収区分・現在の治療費を入力するだけで自己負担額の目安が試算できます。患者への説明前に確認しておくと有用です。
参考:患者向け医療費情報と簡易計算ツール
アリケア.net|医療費制度について(高額療養費制度・世帯合算・多数回該当の解説付き)
DPC算定病院に勤務する医療従事者が注意すべき点があります。
2022年4月の診療報酬改定から、DPC算定病院で入院中の患者にアリケイスを使用する場合、出来高算定ではなく包括算定の扱いとなりました。これは病院経営にとって見逃せない変更点です。つまり、1日あたり約3万8千円の薬剤費が、DPCの包括点数のなかに吸収されてしまい、個別に算定することができません。
病院側が受け取るDPC1日あたりの包括点数では、高額なアリケイスの薬剤費を十分にカバーできない可能性があります。これが原則です。そのため、入院での導入期間をできるだけ短縮することが、病院としての収益管理上も重要な視点となります。入院期間は通常数日から1週間程度が目安で、吸入技術・ラミラのメンテナンス手技を習得したら速やかに外来へ移行する体制が望まれます。
一方、ラミラ(LAMIRA)ネブライザシステムは技術料として評価されており、DPCの包括対象外です。ラミラは医療施設のみでの取り扱いとなっている点も合わせて確認が必要です。
外来移行後は、在宅抗菌薬吸入療法に関する指導管理料として以下が算定できます。
- C121 在宅抗菌薬吸入療法用指導管理料:初月1,300点(800点+500点)、2か月目以降800点(月1回算定)
- C175 在宅抗菌薬吸入療法用ネブライザ加算:初月7,480点、2か月目以降1,800点(月1回算定)
この算定は月1回の来院を前提としています。3か月処方など長期処方を行う際には、月1回来院しないと2,600点分が丸々2か月分失われることになります。長期処方のメリット(患者の通院負担軽減・高額療養費の多数回該当到達の早期化)とデメリット(算定機会の損失)を処方医と事務・薬剤師が共有して管理する体制を作ることが大切です。
参考:アリケイス各種コードとDPCにおける対応
インスメッド合同会社|アリケイス®・ラミラ®の各種コード一覧(DPC包括点数対応表含む)
アリケイスは高額な薬剤であるとともに、適応が厳密に限定された薬剤です。処方前に確認すべき要件を把握しておかないと、査定や返戻リスクに直結します。
保険適応となる対象は「マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)による肺非結核性抗酸菌症」に限られており、かつ「難治性」の症例に限定されています。難治性の基本的な定義は、マクロライド(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)+エタンブトール+リファンピシンなどの標準多剤併用療法を6か月以上継続しても喀痰抗酸菌培養が陽性のままという条件です。
重要な注意点として、肺MAC症の初回治療導入時には適応はありません。「難治性の定義を満たさない肺MAC症には適応はない」という使用指針(2024年改訂版)の文言は、日本結核・非結核性抗酸菌症学会と日本呼吸器学会が明示しているものです。初期治療でいきなりアリケイスを導入することは保険上も認められていません。
また、*M. abscessus*などMAC以外の非結核性抗酸菌(NTM)に対しては現状保険適応がない点も注意が必要です。有効性を示すデータが存在していても、保険適用外となります。肺MAC症と他のNTM症が合併している場合を除き、MAC単独での適応確認が前提となります。
処方を行う医師の要件として、使用指針では「日本結核・非結核性抗酸菌症学会認定医」または「日本呼吸器学会専門医」であることが求められており、難治性肺MAC症の診療経験を有することが望ましいとされています。これは厳格な適正使用の観点から、施設・処方医レベルでの管理が求められていることを示しています。
肺MAC症全体のうち、難治性に該当する割合は約43.4%とされており、一定の患者層が存在することがわかります。適切な患者選択と処方要件の確認が、限られた治療選択肢の中で最大の治療成果を引き出す鍵となります。
参考:ALIS使用指針(2024年改訂)の内容と処方要件
日本結核・非結核性抗酸菌症学会|ALIS(アリケイス吸入液590mg)に関する使用指針(改訂2024)
アリケイスの薬価だけに目が向きがちですが、実際の導入に際して患者が負担するコストはそれだけではありません。全体像を把握することが、治療前の説明の質を大きく左右します。
まず、アリケイスの吸入には専用ネブライザーシステム「ラミラ(LAMIRA)」と専用ハンドセットが必要です。ラミラ本体は医療施設のみでの取り扱いとなっており、患者が薬局で入手するものではありません。一方、蒸気式消毒器(ET-SS011)と超音波洗浄機(JP-900S)は、アリケイスの販売元であるインスメッドではなく提携会社(アーストレック社)から購入する必要があり、合計約1万円の実費負担が生じます。この購入費は健康保険の適用外です。痛いところですね。
ただし、年間医療費が10万円を超える患者がほとんどであることから、この1万円は確定申告での医療費控除の対象として申告できます。少額ながらも所得税・住民税の還付につながるため、患者への案内として有用な情報です。
ハンドセットは毎日分解洗浄と蒸気消毒が必要で、週1回は超音波洗浄も求められます。月1回の交換も必要ですが、交換は薬局ではなく処方医のもとで行う必要がある点は見落とされがちです。約40日程度まで使用可能なデータもあり、連休などへの柔軟な対応は可能です。
薬局との事前調整も不可欠な要素です。アリケイスは7瓶1箱の単位で供給されるため、7の倍数での処方管理が基本となります。インスメッドのアリケアサポートプログラムと薬局の指導が連動する仕組みになっているため、事前連絡なしに処方箋を持って来院させる事態は絶対に避けなければなりません。薬局への事前連絡と在庫管理の確認が、スムーズな導入の条件です。
初回導入は外来でも物理的には可能ですが、吸入手技・洗浄・消毒のすべてを患者が習得する期間を考えると、数日から1週間程度の入院で丁寧に指導を行うことが望ましいとされています。入院中に病棟薬剤師も加わって指導体制を整えることで、在宅への移行が円滑になります。これは使えそうです。
治療期間は菌陰性化後も12か月以上の継続が推奨されており、総治療期間は1年半〜2年以上に及ぶことも珍しくありません。長期にわたる治療費の見通しを患者と共有し、必要に応じてMSW(医療相談員)と連携して経済的支援の制度活用を検討することが、治療継続率の向上にとって最も実効性のある取り組みとなります。
参考:アリケイスの処方上の注意点と在宅移行の実務
日経メディカルブログ(倉原優先生)|肺MAC症に対するアリケイスの処方について(2022年6月改訂版)

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