ストレプトキナーゼは、β溶血性連鎖球菌(主にGroup A、C、G Streptococcus)が産生する47kDaの単一鎖タンパク質です。1933年に溶連菌の産生物質として初めて発見され、現在では遺伝子組換え技術により大量生産されています。
参考)http://radiology-history.online/history-ir2.html
この酵素の最大の特徴は、人体には本来存在しない細菌由来の異種タンパク質である点です。分子構造上、3つの主要なドメイン(α、β、γドメイン)から構成され、各ドメインが協調してプラスミノーゲン活性化機能を発揮します。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/11-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%AD%A6%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%AD%A6/%E6%AD%A2%E8%A1%80/%E6%AD%A2%E8%A1%80%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81
構造的特徴
ストレプトキナーゼの生化学的特性として、単独では酵素活性を持たず、プラスミノーゲンとの複合体形成により初めて活性化されるという独特な機序を有します。この特性は、後述するウロキナーゼとの大きな相違点の一つとなっています。
ウロキナーゼは、人体の尿中や腎臓組織から抽出される内在性のプラスミノーゲンアクチベーターです。分子量約33,000~54,000ダルトンのセリンプロテアーゼであり、一本鎖型(single-chain urokinase, scu-PA)と二本鎖型(two-chain urokinase, tcu-PA)の2つの形態で存在します。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/urokinase/
人体内では、血管内皮細胞、線維芽細胞、単球、マクロファージなどの細胞から分泌され、生理的な線溶系の維持に重要な役割を果たしています。特に、排泄管(尿細管、乳管など)の内側を覆う上皮細胞から放出され、これらの導管における線溶の生理的アクチベーターとして機能します。
分子構造の詳細
ウロキナーゼ受容体(uPAR)との相互作用により、細胞表面での局所的なプラスミン生成が可能となり、より効率的な線溶活性を発揮します。この受容体結合機構は、ストレプトキナーゼには存在しない独自の機能です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11136413/
ストレプトキナーゼの作用機序は、他の血栓溶解薬と比較して極めて特殊な特徴を有します。ストレプトキナーゼ単独では酵素活性を持たず、必ずプラスミノーゲンと1:1の化学量論的複合体を形成することで活性化されます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds1986/4/4/4_4_270/_pdf/-char/ja
活性化プロセス
この機序の重要な特徴は、α2-プラスミンインヒビター(α2-PI)による阻害を受けにくい点です。SK-プラスミン複合体は、遊離プラスミンと比較してα2-PIに対する感受性が低く、より長時間の線溶活性を維持できます。
しかし、溶連菌感染の既往により血中に抗ストレプトキナーゼ抗体が存在する場合、その効果が大幅に減弱する可能性があります。この抗原性は、臨床使用における重要な制限因子となっています。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1402215922
ウロキナーゼは、ストレプトキナーゼとは根本的に異なる直接的な酵素活性を有します。セリンプロテアーゼとして、プラスミノーゲンのLys76-Lys77ペプチド結合を特異的に切断し、二本鎖のプラスミンを生成します。
一本鎖ウロキナーゼ(scu-PA)の特性
二本鎖ウロキナーゼ(tcu-PA)の特性
ウロキナーゼの作用は、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)と類似していますが、フィブリン特異性においてtPAよりも劣ります。しかし、血栓内部への浸透性に優れ、陳旧性血栓に対してもある程度の効果を示すという利点があります。
ストレプトキナーゼは、1970年代から末梢血管および冠動脈血栓症の治療に使用されてきた歴史があります。しかし、その異種タンパク質としての性質により、特有の副作用プロファイルを有します。
治療効果
主要な副作用と問題点
投与制限
近年では、これらの問題により欧米での使用頻度は大幅に減少し、より安全性の高い薬剤への移行が進んでいます。
ウロキナーゼは人体由来のタンパク質であるため、ストレプトキナーゼと比較して格段に優れた安全性プロファイルを示します。抗原性がないことから、アレルギー反応や発熱反応のリスクが極めて低く、反復投与も可能です。
安全性の特徴
臨床効果
参考)https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_02.pdf
副作用プロファイル
主な副作用は出血合併症に限定され、発現頻度は2.5%程度と報告されています。具体的には、消化管出血(0.8%)、嘔気(1.7%)などが挙げられますが、いずれも軽度で可逆的な症状です。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00054202
投与量と効果の関係
低用量投与(60,000単位/日、7日間)でも急性期脳血栓症患者の臨床症候改善に有効であることが示されており、副作用リスクを最小限に抑えた治療戦略が可能です。
特殊な適応
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacsurg/34/5/34_301/_pdf