セボフルランは吸入麻酔薬として広く臨床で使用されており、その血液/ガス分配係数は0.65と比較的低い値を示します。この数値により、デスフルランほどではないものの迅速な麻酔導入と覚醒が可能となっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/36/3/36_368/_pdf
セボフルランの最大の特徴は、気道刺激性が少ないことです。この特性により、マスク導入での単独使用が可能であり、特に小児や呼吸器疾患を持つ患者において安全性の高い選択肢となっています。気管支平滑筋に対する弛緩作用も有しており、喘息患者などにも比較的安全に使用できる利点があります。
参考)https://www.doubutsuiryokiki.com/glossary/4962/
また、セボフルランは化学的安定性においてデスフルランに劣る面があり、ソーダライムとの反応によりコンパウンドAという代謝産物を生成する可能性があります。そのため、低流量麻酔時には注意が必要とされています。
参考)http://www.med.akita-u.ac.jp/~doubutu/ouu/Inhalation.html
💊 代謝率:約5%が代謝され、主に肺から排出されます
🔬 MAC値:成人で約2.0%(年齢により変動)
⚡ 導入の速さ:マスクによる緩やかな導入が可能
デスフルランは血液/ガス分配係数が0.45と極めて低く、現在使用可能な吸入麻酔薬の中で最も迅速な麻酔の導入と覚醒を実現します。この優れた薬物動態特性により、特に長時間手術や高齢者の麻酔において、その真価を発揮します。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.3101101723
デスフルランの重要な特徴として、化学的安定性の高さが挙げられます。ソーダライムとの反応性が低いため、低流量麻酔法での使用に適しており、コスト面での優位性も期待できます。代謝率は0.02%未満と極めて低く、ほぼ全量が変化することなく肺から排出されます。
参考)http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/publication4-4_20180427s.pdf
しかし、デスフルランには強い気道刺激性という欠点があります。この特性により、マスクでの単独導入は困难となり、通常はプロポフォールなどの静脈麻酔薬での導入後に使用されます。特に小児では、この気道刺激性により咳嗽や喉頭痙攣のリスクが高まる可能性があります。
参考)https://www.apsf.org/ja/article/%E3%82%BB%E3%83%9C%E3%83%95%E3%83%AB%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%83%87%E3%82%B9%E3%83%95%E3%83%AB%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%81%AE%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%95%E3%82%A1/
🧪 沸点:23.5℃(特殊な加温気化器が必要)
⚗️ 代謝率:0.02%未満(最も低い代謝率)
🌡️ 蒸気圧:669mmHg(20℃時)
覚醒時間の比較において、デスフルランは明確な優位性を示します。血液/ガス分配係数の違いにより、デスフルランはセボフルランよりも平均して5-10分早い覚醒を実現します。この差は手術時間が長くなるほど顕著になり、3時間を超える長時間麻酔では特に顕著な差が現れます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/36/2/36_163/_article/-char/ja/
特に注目すべきは、高齢者における覚醒時間のばらつきの違いです。デスフルランでは覚醒時間の個体差が小さく、予測可能な覚醒パターンを示します。一方、セボフルランでは個体差により覚醒時間にばらつきが生じる傾向があります。
レミフェンタニル併用下での比較研究では、デスフルランからの覚醒時間は平均8.2分、セボフルランからは平均13.7分という結果が報告されています。この差は統計学的に有意であり、臨床的にも重要な意味を持ちます。
📊 デスフルラン覚醒時間:8-12分(平均)
📈 セボフルラン覚醒時間:12-18分(平均)
⏳ 個体差:デスフルランの方が小さい
日本臨床麻酔学会誌:レミフェンタニル併用下での覚醒時間比較データ
心血管系への影響において、両薬剤は異なる特徴を示します。デスフルランは心筋内カテコラミン放出を増加させる可能性があり、これにより不整脈のリスクが高まることが報告されています。特に、オフポンプ冠動脈バイパス術後の不整脈発症率や、オンポンプ心臓手術後の術後心房細動の発生率がセボフルランより高いことが示されています。
年齢別の分析では、12-17歳の年齢層でデスフルランによる心室性頻脈性不整脈の発生率が26.8%と、セボフルランの8.2%と比較して著しく高い値を示しています。一方、85歳以上の高齢者では、セボフルランでの心臓有害事象の報告率が高くなる傾向があります。
血圧に対する影響では、両薬剤とも濃度依存性の血圧低下を示しますが、デスフルランでは急激な濃度変化により一過性の血圧上昇や心拍数増加を引き起こす可能性があります。これは交感神経刺激作用によるものと考えられています。
❤️ デスフルラン:カテコラミン放出↑、不整脈リスク高
💓 セボフルラン:心血管系への影響が穏やか
⚠️ 注意点:年齢により影響の程度が異なる
呼吸器系への作用において、両薬剤は気管支平滑筋弛緩作用を有していますが、その程度と臨床応用には違いがあります。動物実験では、デスフルランの方がセボフルランよりも強い気管支拡張作用を示すことが報告されています。
気道刺激性については明確な違いがあり、デスフルランは強い気道刺激性を示します。この特性により、特に小児や呼吸器疾患を持つ患者では、咳嗽、喉頭痙攣、気管支痙攣のリスクが高まります。FAERSデータベースの分析では、2か月-2歳および3-11歳のグループで、デスフルランの呼吸器イベント発生率がセボフルランより有意に高いことが示されています。
しかし、成人においては状況が異なります。13のランダム化比較試験のメタアナリシスでは、成人における上気道イベント、喉頭痙攣、覚醒時の咳嗽の発生率において、セボフルランとデスフル゙ランの間に有意差は認められませんでした。
🫁 気管支拡張作用:デスフルラン > セボフルラン
😷 気道刺激性:デスフルラン >>> セボフルラン
👶 小児への影響:デスフルランでリスク高
全身麻酔前後の呼吸抵抗の評価研究では、セボフルランとデスフルランの間で呼吸抵抗に有意な差は認められませんでした。これは、両薬剤が呼吸機能に与える長期的な影響が類似していることを示唆しています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/38/3/38_304/_article/-char/ja/
神経系への影響において、両薬剤は異なる特徴を示します。脳波パターンの解析では、デスフルランは誘発電位モニタリングへの影響が少ないことが報告されています。セボフルランとの比較では、デスフルラン0.3MACで良好なモニタリングが可能であり、神経外科手術における優位性が示されています。
BIS(Bispectral Index)値については、デスフルランはセボフルランやイソフルランと比較して低く測定される傾向があります。これは脳波に与える影響の違いを示唆しており、麻酔深度のモニタリングにおいて注意が必要です。
幼若脳への影響については、相反する研究結果が存在します。Kodamaらの研究では、デスフルランがイソフルランやセボフルランより強い神経アポトーシスを誘導し、作業記憶を阻害することが報告されています。しかし、Shenらの研究では、セボフルランで空間認知能力の低下が認められた一方、デスフルランではこれらの影響が認められませんでした。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/269597ac3778286f8ce7c2b8ac3188f604a9ddb2
🧠 誘発電位モニタリング:デスフルランが有利
📊 BIS値:デスフルランで低値傾向
👶 幼若脳への影響:研究結果に相違あり
日本麻酔科学会:吸入麻酔薬の神経系への影響に関するガイドライン