マラリキシバット塩化物(商品名:リブマーリ内用液)は、2025年3月に承認された革新的な治療薬で、回腸胆汁酸トランスポーター(IBAT)を選択的に阻害する新規作用機序を有しています。
IBATは回腸末端部に存在し、胆汁酸の約95%を再吸収する重要な役割を担っています。マラリキシバットがこのトランスポーターを阻害することで、胆汁酸の腸肝循環が遮断され、体内の胆汁酸プールが減少します。この結果、肝内および胆管内の胆汁酸濃度が低下し、胆汁うっ滞に伴う難治性のそう痒症状が改善されるのです。
臨床試験では、アラジール症候群患者において空腹時血清総胆汁酸濃度の有意な減少とそう痒スコアの改善が確認されています。特に注目すべきは、これまで対症療法しか選択肢がなかった小児の胆汁うっ滞性肝疾患に対して、根治的なアプローチを可能にした点です。
同様の作用機序を持つエロビキシバット(グーフィス)が慢性便秘症に使用されているのに対し、マラリキシバットは希少疾患である胆汁うっ滞症に特化した治療薬として開発されました。
マラリキシバットの副作用は、その作用機序から予想される消化器症状が中心となります。臨床試験における副作用発現頻度は38.3%(18/47例)で、主要な副作用として以下が報告されています。
高頻度の副作用(5%以上)
下痢は最も頻繁に認められる副作用で、これはIBAT阻害により胆汁酸の糞便排泄が増加することに起因します。胆汁酸が大腸に到達すると、腸管運動が亢進し、水分分泌が促進されるため下痢が生じるのです。
腹痛についても、胆汁酸による腸管刺激が原因と考えられます。これらの副作用は用量依存性があり、投与開始時や増量時に特に注意が必要です。
血中ビリルビン増加は、胆汁酸代謝の変化に伴う一時的な現象と考えられていますが、定期的な肝機能モニタリングが推奨されます。
マラリキシバットの用法用量は、対象疾患によって異なる設定となっています。
アラジール症候群の場合
進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)の場合
段階的な用量調整により、副作用の発現を最小限に抑えながら治療効果を最大化することが可能です。食前投与が推奨されているのは、食事による胆汁酸分泌のタイミングに合わせて薬効を発揮させるためです。
体重別の具体的な投与量は詳細に規定されており、3kgから80kg以上まで幅広い体重範囲に対応しています。小児患者が主な対象となるため、正確な体重測定と投与量計算が重要です。
マラリキシバットは、同じIBAT阻害薬であるエロビキシバット(グーフィス)と作用機序は類似していますが、適応症と薬物動態特性に大きな違いがあります。
適応症の違い
薬物動態の特徴
マラリキシバットのIC50値は0.28nMと、非常に高い選択性を示しています。これは、低用量でも十分な効果を発揮できることを意味し、副作用リスクの軽減につながります。
投与頻度と用量設定
エロビキシバットが成人に対して固定用量で投与されるのに対し、マラリキシバットは小児の体重に応じた詳細な用量設定が行われています。これは、小児における薬物動態の個体差を考慮した設計です。
薬価と医療経済性
マラリキシバットの薬価は3,888,640.70円と高額ですが、これは希少疾患用医薬品としての特性と開発コストを反映したものです。対象患者数が限られているため、1患者あたりの開発費用が高くなることが薬価に反映されています。
マラリキシバット投与時には、効果と副作用の両面から継続的なモニタリングが必要です。
効果判定の指標
臨床試験では、投与開始から15-26週にかけて有意な改善が認められており、長期的な観察が重要です。
副作用モニタリング
下痢や腹痛などの消化器症状は投与初期に多く見られるため、以下の点に注意が必要です。
投与継続の判断基準
副作用が重篤でない限り、治療効果が期待できる期間(通常3-6ヶ月)は継続投与を検討します。ただし、持続する下痢により栄養状態の悪化や成長への影響が懸念される場合は、用量調整や休薬を検討する必要があります。
家族への指導ポイント
小児患者の場合、家族への適切な指導が治療成功の鍵となります。
マラリキシバットは、これまで治療選択肢が限られていた小児胆汁うっ滞性肝疾患に対する画期的な治療薬です。適切な患者選択と継続的なモニタリングにより、患者のQOL向上に大きく貢献することが期待されます。
KEGG医薬品データベース - リブマーリの詳細な薬事情報
PASSMED - リブマーリの作用機序と臨床応用に関する詳細解説