先発品だから安全とは限らず、コンスタンは先発品のまま変異原性不純物で回収された初の抗不安薬です。

2025年10月8日、T's製薬株式会社は『コンスタン0.4mg錠・0.8mg錠』のPTP包装品について、有効期限内のすべてのロットを対象とした自主回収(クラスⅡ)を開始し、同時に供給停止を発表しました。突然の発表に驚いた医療現場は多かったはずです。
回収の直接的な原因は、安定性モニタリング(25±2℃/60±5%RH)における24カ月時点の純度試験(類縁物質)の結果にあります。具体的には、PTP包装品において不純物が社内規格上限を超えることが判明しました。この不純物が変異原性物質(遺伝子に変異を引き起こす可能性のある物質)である可能性が否定できず、他のロットでも同様の事象が発生する可能性があるとして、全ロット回収という判断に至りました。
つまり変異原性リスクが判断の核心です。
重要なのは、回収理由が「すでに健康被害が起きた」ではないという点です。T's製薬の発表によると、市場と同等条件で保管した参考品では60カ月時点(有効期間は5年)においても純度試験の社内規格を満たしており、「今回の事象によって重篤な健康被害が発生するおそれはない」と説明されています。現時点で本件に起因すると考えられる健康被害の報告もありません。
ただし、この情報を患者に伝える際には注意が必要です。「健康被害はない」という説明だけでは、患者が薬に対する不信感を持ったり、逆に「なぜ回収するの?」と混乱したりするケースが想定されます。「予防的な措置として、より安全な状態を保つために回収した」という表現が伝わりやすいでしょう。これは使えそうです。
回収対象は以下の通りです。
| 製品名 | 薬価 | 包装規格 |
|---|---|---|
| コンスタン0.4mg錠 | 6.10円/錠 | 100錠(10錠×10)、1,000錠(10錠×100) |
| コンスタン0.8mg錠 | 7.70円/錠 | 100錠(10錠×10) |
なお、コンスタン0.4mg錠の500錠バラ包装品は2023年10月に包装規格の販売終了が案内済みのため、今回の回収対象外となっています。
参考:T's製薬による公式回収案内(岐阜薬科大学付属薬局掲載PDF)
コンスタン0.4mg錠・0.8mg錠 自主回収(クラスⅡ)および供給停止のご案内(岐阜薬科大学病院薬剤部)
コンスタン(アルプラゾラム)の供給停止を受け、T's製薬は代替候補品として2製品を案内しています。いずれも同一有効成分であるアルプラゾラムを含む製品です。
| 製品名 | 区分 | 薬価(0.4mg換算) | 製造販売元 |
|---|---|---|---|
| アルプラゾラム錠0.4mg「アメル」 | 後発品 | 5.90円/錠 | 共和薬品工業 |
| ソラナックス0.8mg錠 | 先発品 | 7.60円/錠 | ヴィアトリス製薬 |
| アルプラゾラム錠0.4mg「トーワ」 | 後発品 | 5.90円/錠 | 東和薬品 |
| アルプラゾラム錠0.4mg「サワイ」 | 後発品 | 5.90円/錠 | 沢井製薬 |
後発品への変更でも有効成分は同じです。
コンスタン0.4mg錠の薬価は6.10円/錠でしたが、アルプラゾラムの後発品は5.90円/錠と差はわずか0.2円です。1日3回・30日分服用するとしても、差額は約18円と微々たるものです。ただし、長期服用患者にとっては薬の「見た目や名前が変わる」ことによる心理的な影響の方が大きい場合があります。心理的影響への配慮は必須です。
ソラナックスはコンスタンと同様、アルプラゾラムを有効成分とする先発品です。製造会社はヴィアトリス製薬(旧ファイザー・アップジョン社系)で、1984年から発売されている歴史ある薬剤です。「コンスタンとソラナックスは成分が同じか?」と確認する患者も多いため、「まったく同じ有効成分です」と明確に答えられるよう準備しておきましょう。
なお、院内ではすでに「アルプラゾラム錠0.4mg『トーワ』」などへの切り替え対応を進めた施設も報告されています。代替品への切り替えに際しては、処方箋の変更手続き・疑義照会のフローを事前に確認しておくことが重要です。
参考:医薬品の供給状況と代替品情報(DSJP 医療用医薬品供給状況データベース)
コンスタンが供給停止となった今、医療現場では処方変更への対応が急務となっています。ここで注意しなければならないのは、コンスタンはいわゆる「向精神薬(第3種)」に分類される管理薬品であるという点です。処方変更にはいくつかの手続き上のステップが必要になります。
まず、薬剤師法第23条の規定により、薬剤師は処方せんに記載された医薬品の品目を、処方医の同意なく変更することができません。これが原則です。ただし例外があります。処方箋の「変更不可」欄に医師のサインがない場合、薬剤師は患者に説明・同意を得た上で、同一有効成分・同一含量のジェネリック医薬品へ変更できます。
✅ 処方変更フローの基本ステップ
- ① 処方箋の「変更不可」欄を確認する
- ② 欄に医師署名がなければ、患者へジェネリックへの変更を説明・同意取得
- ③ コンスタンが「変更不可」指定の場合は、必ず処方医へ疑義照会
- ④ 疑義照会では「コンスタンが自主回収・供給停止中のため、同成分アルプラゾラム製品への変更可否を確認する旨」を明確に伝える
- ⑤ 変更後は調剤録・薬歴にその旨を記載
疑義照会が必要なケースは特に多いと予想されます。それは、コンスタンを処方してきた患者の多くが長期服用者であり、「変更不可」となっているケースや、医師が特定の製品を意図的に選んできたケースが含まれるためです。
また向精神薬としての管理面でも確認が必要です。アルプラゾラムは麻薬及び向精神薬取締法における第3種向精神薬に分類されています。帳簿記載、2年間の保管義務などのルールは代替品に変更した後も変わりません。これは基本です。
処方変更対応のスピードが患者ケアの質に直結します。院内プロトコルを早期に整備した施設では、患者からの問い合わせにも迅速に対応できています。
参考:厚生労働省・後発医薬品への変更ルールについて
処方せんに記載された医薬品の後発医薬品への変更について(厚生労働省)
コンスタンが突然入手できなくなったとき、最も危険な事態の一つは「患者が自己判断で服薬を中止してしまう」ことです。医療従事者として、この点を患者に明確に伝える責任があります。
アルプラゾラムはベンゾジアゼピン系の抗不安薬であり、継続服用によって身体依存が形成されることがあります。特に数カ月以上服用している患者では、急な中断によって離脱症状が発現するリスクがあります。
離脱症状の代表的な症状は以下の通りです。
- 強い不安・焦燥感の再燃
- 不眠・悪夢
- 発汗・頻脈などの自律神経症状
- 頭痛・吐き気・めまい
- 重症例ではけいれん・せん妄
厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアルによると、アルプラゾラムのような短時間作用型ベンゾジアゼピン系薬では、服用中止後2日以内に離脱症状が出現することが多いとされています。長期服用者では、たった1〜2日分の薬が手に入らないだけで症状が出始めるケースがある点も把握しておく必要があります。痛いですね。
患者への説明で押さえておきたいポイントは以下の3点です。
| ポイント | 説明内容 |
|---|---|
| 自己中断の危険性 | 「薬が変わっても、お薬を急にやめることは危険です」と明確に説明 |
| 同成分であること | 「代わりの薬も同じ成分ですので、効果や副作用に違いはありません」 |
| 不安のある場合の相談先 | 「変更後に気になる症状があれば、すぐに医師または薬剤師に相談を」 |
コンスタンを長年服用してきた患者にとって、「薬が突然なくなる」というニュースは強い不安を引き起こします。「品質上の問題はあったが、すでに飲んでいた薬による健康被害は現時点では報告されていない」という正確な情報を、パニックを起こさせず、かつ軽く見せず伝えることが重要です。
参考:厚生労働省ベンゾジアゼピン系薬の安全情報(PMDA)
重篤副作用疾患別対応マニュアル:ベンゾジアゼピン系薬の依存・離脱(PMDA)
今回のコンスタン回収は、医療現場に一つの重要な問いを投げかけています。それは「先発品だから品質が安定している」という前提は、果たして常に正しいのか、という点です。意外ですね。
一般的に、先発品は長い市場経験と豊富な安全性データを持つと認識されています。一方、後発品(ジェネリック)はコスト優先で品質が劣るというイメージを持つ患者も少なくありません。しかし今回の事例は、先発品であっても製造・安定性管理上のリスクを完全に排除できないことを如実に示しています。
近年、後発品メーカーによる不正製造問題が相次いだことで、先発品への回帰傾向もありました。医薬品不足も問題になっています。しかし2025年10月のコンスタン回収は、先発品側にも同様のリスクが存在することを示した象徴的な事例として記憶されるべきです。
医療従事者として今回の事例から得られる実践的な教訓を整理すると、次のようになります。
🔍 処方設計の見直しポイント
- 複数の代替品を事前に把握しておく: 特定の薬剤に依存した処方設計は、今回のような供給停止が起きたときの代替手段がなくなるリスクを持ちます。アルプラゾラム製品で言えば、ソラナックス・アルプラゾラム「トーワ」「アメル」「サワイ」など複数の選択肢を常に意識しておくことが重要です。
- 長期服用患者へのフォローを強化する: ベンゾジアゼピン系薬を長期処方している場合、供給リスクを見越した減薬・切り替え計画を検討することも一つの医療的選択肢です。
- 医薬品供給情報を定期的にチェックする: DSJP(医療用医薬品供給状況データベース)やPMDA、メーカーDIセンターからの情報を習慣的に確認する体制を整えることが望まれます。
また、今回の回収で注目すべき独自視点として、ベンゾジアゼピン系薬は国内外で処方量削減の議論が続いており、長期処方の見直し機会としてこの供給停止を活用する考え方もあります。急いで代替品を探すことと同時に、依存リスクの高い患者については主治医と連携して段階的減薬の検討をセットで行うことが、より包括的なケアにつながります。結論は「供給停止を減薬の切り口に活かす」ことができるということです。
供給停止情報の最新チェックには、以下のデータベースが便利です。登録も無料で、薬剤ごとの供給状況変更をリアルタイムに確認できます。
参考:医薬品の供給状況をリアルタイムで確認できるデータベース
DSJP|医療用医薬品供給状況データベース(最新の出荷停止・限定出荷情報を一覧で確認可能)