以前の2010年版を今も使い続けると、主要ジャーナルへの投稿が却下される確率が約40%高まります。
CONSORT(Consolidated Standards of Reporting Trials)声明は、ランダム化比較試験(RCT)の報告品質を標準化するための国際的なガイドラインです。1996年に初版が発表され、2001年、2010年と改訂を重ね、2025年版がついに公開されました。
改訂の主な動機は「再現性の危機」への対応にあります。医学研究では2010年代以降、発表済み研究の再現が取れないケースが相次ぎ報告されました。Nature誌の調査(2016年)では、調査対象の研究者の70%以上が「他者の研究を再現できなかった」と回答しています。これは深刻な問題です。
CONSORT 2025は、この問題に正面から取り組むため、報告の透明性・完全性・再現可能性を一層高める方向で策定されました。具体的には、試験の事前登録とプロトコルの公開をより厳格に求め、バイアスリスクの記述をより詳細にするよう求めています。
つまり「きちんと書いた」だけでは足りない時代になったということです。
改訂作業には世界60か国以上から研究者、臨床医、統計家、患者代表が参加しました。特筆すべきは、患者・市民参画(PPI)の視点が初めて本格的にガイドライン策定プロセスに組み込まれた点です。これは意外ですね。
2025年版はBMJ(British Medical Journal)に掲載され、同誌を含む多数のジャーナルが即座に採用を宣言しています。医療従事者にとっては「いつか対応しよう」では済まない、実務直結の変更です。
CONSORT 2010では25項目だったチェックリストが、2025年版では項目の再編と追加により構成が見直されています。単純な項目数の増加だけでなく、各項目の「記載内容の粒度」が細かくなった点が最大の変更です。
変更点の中でもとくに影響が大きいのは以下の領域です。
| 領域 | 2010年版 | 2025年版 |
|---|---|---|
| 試験登録 | 登録番号の記載のみ | 登録番号+プロトコル公開URLの記載を必須化 |
| 患者・市民参画 | 記載なし | PPIの有無と内容の明示を新設 |
| バイアスリスク | 配分隠蔽の記述 | ROB 2ツール準拠の詳細記述を推奨 |
| 統計解析 | 主要解析の記述 | 欠損データの扱い・感度分析の明示を強化 |
| 介入の再現性 | 介入の概要記述 | TIDieRチェックリストへの準拠を推奨 |
「試験登録さえしていれば大丈夫」が原則です…とはもはや言えません。プロトコルが公開されていない場合、一部ジャーナルでは査読前に差し戻しになるケースが現実に起きています。
TIDieRチェックリストへの準拠推奨も実務的に重要です。介入の内容を他施設で再現できる粒度で記載することが求められ、「通常どおりのケアを実施した」という曖昧な記述は今後通らなくなります。
統計面では、欠損データの取り扱い方針(例:多重代入法か完全症例解析か)と、それが結果に与える影響を感度分析で示すことが強く推奨されています。これは時間のかかる作業ですね。
CONSORT 2025で最も実務インパクトが大きい変更の一つが、事前登録とプロトコル公開の厳格化です。
従来、試験登録はWHO国際臨床試験登録プラットフォーム(ICTRP)やClinicalTrials.gov、日本では jRCT(Japan Registry of Clinical Trials)への登録が推奨されていました。2025年版ではこれに加え、登録された内容と実際に実施・報告された内容の「一致度」を明示することが求められています。
具体的には、プロトコルとの相違がある場合、その理由と影響を論文内で説明しなければなりません。「アウトカムを後から変更した」「サンプルサイズ計算の仮定を変えた」などが典型例です。これを報告しないことは、以前は「よくある慣行」でしたが、2025年版では明確にNG行為とされています。
報告しないと「選択的アウトカム報告バイアス」と判定されます。
jRCTへの登録は無料ですが、登録後に内容を変更した場合は変更記録が残り、論文との照合が可能になります。この点を事前に意識せず試験を設計していると、後から大きな手直しが必要になります。
CONSORT 2025は、報告ガイドラインという位置づけながら、実質的に試験設計・運営の規範にまで踏み込んでいます。これが重要なポイントです。
投稿を検討している医療従事者は、試験開始前の段階からCONSORT 2025の要件を確認し、プロトコルに反映させることが、のちの手戻りを防ぐ最も有効な対策になります。jRCT登録ページと最新のCONSORT 2025チェックリストを手元に置いておくことをお勧めします。
jRCT(日本臨床試験登録システム)公式サイト:日本国内の臨床試験登録・変更手続きの詳細が確認できます。
CONSORT本体に加えて重要なのが「エクステンション(拡張版)」の存在です。これを知らない研究者が意外に多い現状があります。
エクステンションとは、特定のデザインや介入タイプに応じてCONSORT本体を補完する追加チェックリストのことです。代表的なものを挙げると。
医療現場で多用されているクラスター試験や非劣性試験では、本体チェックリストだけでは不十分です。これが条件です。
CONSORT 2025では、これらエクステンションとの整合性を明確にするよう求めており、「どのエクステンションを適用したか(または適用しなかったか)」を論文のどこかで明示することが推奨されています。
非劣性試験については特別な注意が必要です。非劣性マージン(Δ値)の設定根拠とその臨床的意味の説明が従来以上に詳しく求められています。「先行研究のメタ解析から得た95%信頼区間の下限の50%をΔとした」といった水準の記述が期待されます。曖昧な記述は通らなくなります。
有害事象の報告(CONSORT for Harms)については、2025年版でとくに強化されています。深刻な有害事象(SAE)の定義・判定プロセス・追跡期間を明示し、発現率を治療群・対照群ともに表形式で示すことが強く推奨されています。
CONSORT公式サイト・Extensionsページ:各エクステンションのチェックリストPDFが無料でダウンロードできます。
CONSORT 2025の内容を理解することと、実際の投稿作業に落とし込むことは別の話です。ここでは、研究者・医療従事者が現場で使えるワークフローを紹介します。
ステップ1:試験デザイン確定時(研究開始前)
試験デザインが固まった段階でCONSORT 2025本体チェックリストと、該当するエクステンションをダウンロードします。各項目を「どこで・どのように報告するか」をプロトコル文書に対応させておくと、論文執筆時の作業量が劇的に減ります。この段階が最重要です。
ステップ2:データ収集・解析中
欠損データの発生状況をリアルタイムで記録してください。後から「なぜ欠損したか」を再構成することは困難で、CONSORT 2025が求める欠損データの記述に対応できなくなります。また、プロトコルからの逸脱が生じた場合はその都度メモしておくことが重要です。
ステップ3:論文執筆時
CONSORT 2025チェックリストの各項目に、論文内の対応する段落番号(またはページ数)を記入した「完成版チェックリスト」を作成します。これは多くのジャーナルで投稿時の必須添付書類となっています。記入漏れがあると査読前に差し戻されます。
ステップ4:投稿前の最終確認
共著者全員でチェックリストをクロスチェックすることをお勧めします。筆頭著者だけが把握していても、査読者が「共著者間で情報が共有されていない」と判断するケースがあります。一人で抱え込まないことが大切です。
CONSORT 2025の公式チェックリストはCONSORT公式サイト(www.consort-statement.org)から無料でダウンロードできます。日本語訳については、Minds(医療情報サービス)や日本疫学会のリソースも参考になります。
Mindsガイドラインライブラリ:日本語による臨床研究報告ガイドラインの解説と関連リソースが確認できます。
CONSORT 2025対応の論文を書くことは、単にジャーナルの要求に応えるためだけではありません。研究の透明性を高めることで、自分たちの研究が世界中の医療現場で正しく活用される可能性が広がります。それが最大のメリットです。
チェックリストの各項目を「面倒な作業」ではなく「研究品質の証明」として位置づけると、取り組み方が変わります。投稿前に一度立ち止まり、CONSORT 2025チェックリストを開いて自分の論文と照合する、その一手間が採択率と研究の信頼性を大きく左右します。