アテゾリズマブ・ベバシズマブの副作用と適切な管理法

切除不能肝細胞癌の一次治療として広く用いられるアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法。高血圧・蛋白尿・irAEなど多岐にわたる副作用を、医療従事者はどう見極め、管理すべきか?

アテゾリズマブ・ベバシズマブの副作用と管理のポイント

高血圧が出てからでは遅く、投与前に内視鏡をしないと静脈瘤出血で患者が死亡します。


📋 この記事の3ポイント要約
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ベバシズマブ由来の副作用に要注意

IMbrave150試験では高血圧が約30%、蛋白尿が約20%に発現。Grade3以上の高血圧は15.2%に達し、投与前からの血圧管理と定期的な尿検査が不可欠です。

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irAEはアテゾリズマブ由来の免疫関連有害事象

間質性肺炎・肝障害・甲状腺機能障害・副腎不全など多臓器に及ぶirAEが遅発性に発現することがあり、投与終了後も継続的な観察が必要です。

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投与前スクリーニングが副作用リスクを左右する

ベバシズマブ開始前の上部消化管内視鏡検査(EGD)は必須。食道静脈瘤を未治療のまま投与開始した症例では出血リスクが著しく上昇します。


アテゾリズマブ・ベバシズマブ療法の概要と副作用の全体像

アテゾリズマブ(商品名:テセントリク®)とベバシズマブ(商品名:アバスチン®)の併用療法(以下、アテゾ+ベバ療法)は、2020年9月に厚生労働省から切除不能な肝細胞がん(HCC)に対する一次薬物療法として承認されました。それまでソラフェニブ一択だったHCCの全身薬物療法に大きな転換をもたらした、画期的なレジメンです。


承認の根拠となったのが国際共同第III相試験のIMbrave150試験です。全生存期間(OS)中央値はアテゾ+ベバ群が19.2ヵ月、ソラフェニブ群が13.4ヵ月(HR 0.66、p<0.001)と有意差を示しました。無増悪生存期間(PFS)中央値もそれぞれ6.9ヵ月 vs. 4.3ヵ月(HR 0.65、p<0.001)であり、奏効率(ORR)も30%対11%と大きく上回っています。


効果が高い反面、副作用は2つの薬剤それぞれに由来するため多岐にわたります。つまり管理が複雑です。大きく分けると、ベバシズマブ(抗VEGF抗体)由来の副作用と、アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)由来の免疫関連有害事象(irAE)の2系統があります。それぞれのメカニズムを理解した上で、適切なモニタリングと対処を行うことが、医療従事者に求められる重要なスキルです。


本レジメンはChild-Pugh分類Aの患者にのみ推奨されており、Child-Pugh B以外の症例への投与は臨床試験の対象外で安全性が確立していない点にも注意が必要です。肝予備能が基本条件です。


以下の表に副作用の全体像を整理しました。
























原因薬剤 代表的な副作用 IMbrave150における発現率(全Grade)
ベバシズマブ 高血圧、蛋白尿、出血、血栓・塞栓、消化管穿孔、創傷治癒遅延 高血圧:約30%、蛋白尿:約20%
アテゾリズマブ(irAE) 間質性肺炎、肝障害、甲状腺機能障害、副腎不全、下垂体炎、1型糖尿病、大腸炎、腎炎 注意すべきAESI(Grade3以上):約33%
共通(全般) 倦怠感、食欲低下、下痢、発熱、嘔気、体重減少 倦怠感:約20%、下痢:約19%、食欲減退:約18%


国立がん研究センターによる肝がんの治療解説(全身薬物療法のセクション)も参考になります。


国立がん研究センター「肝がんの治療について」(全身薬物療法・副作用記載あり)


アテゾリズマブの副作用:irAEの種類・発現時期と対応

アテゾリズマブは抗PD-L1抗体であり、T細胞の免疫チェックポイントを解除することで抗腫瘍効果を発揮します。一方で、この免疫活性化が自己の正常組織にも向かうことで、irAE(免疫関連有害事象)が生じます。irAEの種類は多岐にわたり、全身のどの臓器にも発現しうることが特徴です。


IMbrave150試験では注意すべき有害事象(AESI)としてGrade3以上が1件以上発現した患者が33.3%に認められており、Grade3のAESIの中では肝障害/肝不全(20.8%)が最多でした。意外に見落とされがちなのが内分泌系のirAEです。


主なirAEとその特徴は以下のとおりです。







































irAEの種類 主な症状 対応の原則
間質性肺炎(ILD) 乾性咳嗽、息切れ、低酸素 Grade1でも休薬検討、Grade2以上でステロイド投与
肝機能障害 AST/ALT上昇、黄疸 肝細胞がん症例専用の休薬基準を適用(一般がん種と異なる)
甲状腺機能障害 倦怠感・浮腫(低下症)、頻脈・発汗(亢進症) 定期的なTSH・FT4モニタリング、ホルモン補充療法
副腎不全 倦怠感、低血圧、低血糖、食欲不振 副腎クリーゼを疑ったら即座にステロイド投与
大腸炎 水様性下痢、腹痛、血便 Grade2以上でステロイド投与、重症例にはインフリキシマブ
1型糖尿病 急激な高血糖、ケトアシドーシス 早期のインスリン導入、血糖モニタリング強化


特に注意が必要なのが「遅発性」のirAEです。甲状腺機能障害や副腎不全は投与開始から数ヶ月後に発現することがあり、投与サイクルが進んでいても油断はできません。肝細胞がんの場合、患者が既存の肝障害を持っていることが多く、がんによる肝障害とirAEによる肝障害の鑑別が難しいという特有の問題があります。肝障害の鑑別が原則です。


irAEへの対処の基本はステロイド療法ですが、間質性肺炎においてはGrade1であっても投与を中止して経過観察を行い、改善が見られない場合にはプレドニゾロン換算で0.5~1 mg/kg/日のステロイド投与を開始します。Grade3以上のirAEや再発性のirAEが生じた場合は、アテゾリズマブの永続的な中止を検討します。


なお、肝細胞がん特有の休薬・中止基準として、AST/ALTが基準値上限の10倍超または総ビリルビンが基準値上限の3倍超の場合は投与中止となります。これは一般がん種とは異なる基準なので、担当医・薬剤師は必ず添付文書を確認してください。


irAEの管理ガイドラインについては日本臨床腫瘍学会のがん免疫療法ガイドライン(第3版)が詳しいです。


日本臨床腫瘍学会「がん免疫療法ガイドライン第3版(案)」(irAEの種類・対応フロー記載)


ベバシズマブの副作用:高血圧・蛋白尿の管理と数値基準

ベバシズマブは血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害することで腫瘍血管新生を抑制しますが、同時に正常な血管保護機能も低下させます。その結果として発現するのが、高血圧と蛋白尿という2大副作用です。


IMbrave150試験では高血圧が29.8%(うちGrade3以上が15.2%)、蛋白尿が20.1%(うちGrade3以上が3.0%)に認められています。高血圧の約6人に1人がGrade3以上という数値は、見逃せません。


🔴 高血圧の管理フロー


ベバシズマブ投与中の高血圧管理の基本は、毎診察時・毎サイクルの血圧測定です。家庭血圧計を用いた自己測定を患者に指導することも有効です。


- Grade1(収縮期血圧140~159 mmHg または拡張期血圧90~99 mmHg):降圧薬の開始または調整を検討
- Grade2(収縮期血圧160 mmHg以上 または拡張期血圧100 mmHg以上):降圧薬の開始・増量。薬物療法で管理可能な場合はベバシズマブを継続
- Grade3(薬物療法でコントロール不能な高血圧):ベバシズマブの休薬を検討
- Grade4(高血圧性脳症・高血圧性クリーゼ):ベバシズマブの永続的中止


降圧薬の選択としては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が第一選択とされることが多いです。最近の研究では、アテゾ+ベバ療法中のHCC患者においてARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)が高血圧と蛋白尿の両方を同時に管理できる可能性が示されています。


🟡 蛋白尿の管理フロー


蛋白尿のモニタリングには尿試験紙(ディップスティック)を毎サイクル実施し、2+以上が陽性の場合は24時間蓄尿またはUPC比(尿蛋白/クレアチニン比)で定量評価を行います。


- 尿蛋白2+:24時間蓄尿またはUPC比で確認
- 蛋白尿2g/24時間以上(UPC比≧2):ベバシズマブの休薬基準
- ネフローゼ症候群(蛋白尿3.5g/24時間以上)または Grade4:永続的中止


24時間蓄尿は外来患者には実施困難なことが多く、この場合はUPC比で代用することが推奨されています。UPC比0.5未満は蛋白尿なし、1.0以上は高度蛋白尿とみなすのが一般的な目安です。休薬基準はUPC比で代用可能です。


蛋白尿はVEGF阻害による糸球体の機能障害が主なメカニズムです。既存の高血圧を持つ患者では蛋白尿の発現率が高くなる傾向があるため、事前のリスク評価が重要です。


がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン(日本腎臓学会)も腎障害対応の参考になります。


日本腎臓学会「がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2022」(VEGF阻害薬による蛋白尿・高血圧の管理)


アテゾリズマブ・ベバシズマブ投与前に必須のスクリーニングと出血リスク管理

ベバシズマブの持つ最も深刻なリスクの一つが出血です。特に肝細胞がん患者の多くは肝硬変を背景に持ち、食道・胃静脈瘤を合併していることがあります。静脈瘤がある状態でベバシズマブを投与すると、出血リスクが著しく高まります。


実臨床のデータでも、アテゾ+ベバ療法中の静脈瘤出血は98人中5人(5.1%)に認められており、全例が投与前の上部消化管内視鏡検査(EGD)で食道静脈瘤を認めた患者でした(日本経済メディカル・2022年報告)。投与前EGDを行わないことが、出血リスクを不必要に高める可能性があります。


📋 投与前に確認すべき必須スクリーニング項目


| スクリーニング | 実施タイミング | 判断基準 |
|---|---|---|
| 上部消化管内視鏡検査(EGD) | 投与開始前6ヵ月以内 | 出血リスクのある静脈瘤がある場合は予防的処置を実施してから投与 |
| 血圧測定 | 毎サイクル・投与前 | 収縮期血圧160 mmHg/拡張期血圧100 mmHg未満を目標 |
| 尿蛋白(試験紙) | 毎サイクル・投与前 | ≦1+であれば継続可 |
| 肝機能検査(AST/ALT/ビリルビン) | 毎サイクル | Child-Pugh Aの維持を確認 |
| 血算(血小板含む) | 毎サイクル | 血小板減少の進行に注意 |


出血リスクの観点では、以下の点も重要です。ベバシズマブは血管内での血栓形成と出血の両方のリスクを高めます。深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症のリスク因子がある患者では慎重な投与が必要です。また、最近の研究(Oncology誌2025年9月)では、アテゾ+ベバ療法中の食道静脈瘤悪化のリスク因子として、静脈瘤の治療歴・薬剤抵抗性腹水・CTでの食道壁内血管径3.3mm超・左胃静脈径4.9mm超が独立したリスク因子として特定されています。これらを持つ患者への注意深いモニタリングが推奨されています。


消化管穿孔についても留意が必要です。ベバシズマブの適正使用ガイドでは消化管穿孔が死亡に至る例が報告されており、下痢や腹痛が持続する場合は速やかに評価が必要です。稀ではありますが、報告例があります。


また、2025年8月にはC型肝炎関連肝細胞がん患者において、アテゾ+ベバ療法後に重篤な門脈血栓症が発生し死亡に至った症例が報告されました(Clinical Journal of Gastroenterology)。治療開始後も門脈血流の変化には引き続き注意が必要であることを示す症例です。


アテゾ+ベバ療法の食道静脈瘤悪化リスク因子についての最新の研究報告です。


ケアネット「アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法で食道静脈瘤悪化のリスク因子を特定」(2025年9月)


アテゾリズマブ・ベバシズマブ療法の休薬・中止基準と単剤継続の考え方

副作用が発現した際に、どのタイミングでどちらの薬剤を休薬・中止するかは、治療継続と安全性のバランスを左右する重要な判断です。アテゾリズマブとベバシズマブは、それぞれに独立した休薬・中止基準を持ちます。片方を止めてももう片方を継続できる場合があります。


IMbrave150試験では、副作用のためにテセントリクまたはアバスチンのどちらか一方を休薬・中止した患者に対して、もう一方の単剤療法の継続が許容されていました。これは実臨床においても重要な考え方であり、必ずしも両剤を同時に中止する必要はありません。


アテゾリズマブの主な休薬・中止基準(肝細胞がん適用)


- 間質性肺炎:Grade2で休薬、Grade3以上または再発性で永続的中止
- 肝機能障害(HCC特有基準):AST/ALTが10×ULN超または総ビリルビン3×ULN超で中止
- 副腎クリーゼの疑い:即時休薬しステロイド投与
- Grade3以上の皮膚障害・神経障害:中止基準の一つ
- 12週間を超える休薬後もGrade1以下に回復しない場合:永続的中止


ベバシズマブの主な休薬・中止基準


- コントロール不能な高血圧(薬物療法でも管理不能):休薬・中止
- 蛋白尿2g/24時間以上(UPC比≧2):休薬
- ネフローゼ症候群:永続的中止
- 消化管穿孔・瘻孔:永続的中止
- 重篤な出血:永続的中止
- 重篤な血栓塞栓症:永続的中止


なお、手術が予定される場合はベバシズマブを事前に休薬することが必要です(創傷治癒遅延のリスクがあるため)。適正使用ガイドでは術前少なくとも28日間の休薬が推奨されています。術前の休薬計画が必須です。


副作用マネジメントと治療継続の判断は、患者の全身状態や肝予備能の変化とあわせて総合的に評価することが大切です。単剤継続の場合も、休薬した薬剤の再開時期については各サイクルごとに慎重に再評価を行います。


厚生労働省の最適使用推進ガイドラインには肝細胞がん特有の基準が詳記されています。


厚生労働省「最適使用推進ガイドライン アテゾリズマブ(遺伝子組換え)肝細胞癌」(休薬・中止基準の詳細)


医療従事者が見落としやすいアテゾリズマブ・ベバシズマブ副作用の独自視点:「副作用の素因評価」という盲点

副作用対応の多くは「発現してから対処する」という事後対応が中心になりがちです。しかし近年の研究では、投与前の患者特性から副作用リスクを予測できる因子が明らかになりつつあり、「発現前に介入する」という予防的アプローチへの転換が進んでいます。


例えばベースラインのアルファフェトプロテイン(AFP)値が400 ng/mL以上であることが、irAEの発現と独立して関連するという報告があります(Oncotarget誌2025年5月)。AFP高値の患者はirAEのリスクが高い可能性があり、より厳密なモニタリングスケジュールを設定することが検討に値します。


また、irAEが発現した患者は発現しなかった患者よりも有意に良好なPFS・OSを示すことが複数の研究で示されており、irAEの発現がある程度の免疫活性化の証拠として機能している可能性があります。つまりirAEの発現=即座に治療中止ではなく、適切にコントロールしながら治療を継続することが患者の長期生存につながる可能性があります。


全身状態の評価ツールとして、肝機能だけでなくサルコペニア(筋肉量の減少)の有無も副作用耐性に影響する可能性が指摘されています。栄養評価と並行した薬物療法管理が、今後の多職種連携の重要テーマになるでしょう。


具体的に多職種チームで取り組む際には、以下のような実践的な介入が考えられます。


- 💡 薬剤師によるポリファーマシー確認:降圧薬・利尿薬など、ベバシズマブの副作用管理薬との相互作用チェック
- 💡 看護師による外来モニタリング強化:毎サイクル前の血圧・体重・浮腫・自覚症状のスクリーニング(副作用チェックシートの活用)
- 💡 栄養士との連携:食欲低下・体重減少への対応と筋肉量維持のための栄養介入
- 💡 患者自身のセルフモニタリング教育:家庭血圧計の使用・症状日誌の記録・緊急時の連絡フロー周知


irAEが発現した際、特に内分泌障害(副腎不全・下垂体機能低下)は「なんとなく体調が悪い」という非特異的な訴えとして見逃されやすい副作用です。ステロイドを補充しなければ副腎クリーゼに至り生命危機を招くこともあるため、外来でのルーティンな問診に「倦怠感の増悪・めまい・立ちくらみ・食欲不振」の確認を組み込むことが重要です。


内分泌障害は永続的なホルモン補充が必要になる場合も少なくありません。これはアテゾリズマブ投与終了後も続くことがある点で患者に事前の説明が必要です。投与終了後も継続観察が必要です。


多職種チームでのirAEマネジメントについての実践的な情報はこちらに詳しいです。


新潟県立がんセンター「多職種チームで支える免疫チェックポイント阻害剤治療」(irAEの概要と対策)