ベバシズマブ単独投与では、脱毛はほぼ起こりません。
ベバシズマブ(商品名:アバスチン)は、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に結合するヒト化モノクローナル抗体です。がん細胞が自らの増殖に必要な新生血管を作るためにVEGFを分泌しますが、ベバシズマブはそのVEGFに直接くっついて機能を阻害します。結果として、がんへの栄養・酸素供給が断たれ、増殖スピードが低下します。
この「血管新生阻害」という作用機序は、がん細胞の分裂そのものを直接攻撃するわけではありません。これが重要なポイントです。従来の細胞傷害性抗がん薬は、急速に分裂する細胞を広くダメージします。毛根の毛母細胞も増殖が活発なため、細胞傷害性薬剤の影響を受けやすく、脱毛が生じるわけです。
つまり、ベバシズマブ自体の主要な副作用プロファイルには脱毛は「5%以上」の高頻度副作用としては分類されず、添付文書の「11.2 その他の副作用」の5%以上欄に「脱毛症(10.7%)」と記載されています。この数値は、パクリタキセルなどとの併用レジメンにおいて観察されたデータです。
重要なのは、単独投与の試験データではなく、「本剤10mg/kg+パクリタキセル」の臨床試験で副作用発現率100%(120/120例)、そのうち脱毛症98.3%(118/120例)という数字が示されている点です。この高率な脱毛は、ほぼパクリタキセルに起因するとみてよいでしょう。
脱毛リスクを誤ってベバシズマブ単独に帰属させると、患者への説明が不正確になります。それが原則です。患者に「アバスチンで髪が抜ける」とのみ説明することは、誤解を招くリスクがあります。
参考:ベバシズマブの適正使用ガイドラインを含む中外製薬の医療従事者向け情報ページ
アバスチン点滴静注用 電子添文(中外製薬)
医療従事者が真っ先に管理すべきベバシズマブ固有の副作用は、脱毛ではなく、高血圧・出血・消化管穿孔・血栓症です。これは明確です。
高血圧(発現率18.2%)はベバシズマブで最も頻度の高い有害事象のひとつです。VEGFが血管拡張作用を持つ一酸化窒素の産生に関与するため、VEGFを阻害することで血管が収縮し、血圧が上昇すると考えられています。特に用量が増えるほど発現率も上がる傾向があります。
高血圧への対応は降圧薬の投与が中心ですが、重要なのは「血圧コントロールができていれば治療継続が可能」という点です。海外ガイドラインでは、ACE阻害薬またはARBが第一選択として推奨されています。投与前から血圧の基準値を把握しておき、毎サイクルの投与前にモニタリングする体制が不可欠です。
次に注目すべきは消化管穿孔(発現率0.9%)です。発現率は低いものの、死亡例が報告されている重篤な副作用です。突然の腹痛・発熱・嘔吐などで発症するため、初期症状を素早く見抜くことが求められます。消化管穿孔と診断された場合は、ベバシズマブの再投与は禁止されます。
出血はVEGF阻害による内皮細胞再生の阻害が原因とされています。鼻血や歯ぐきからの出血(軽度)から、消化管出血・肺出血・脳出血(重篤)まで幅広く報告されています。扁平上皮肺がん患者では肺出血リスクが特に高いため、適応外とされています。脳転移のある患者では脳出血のリスクも高まるため注意が必要です。厳しいところですね。
血栓症については、動脈血栓塞栓症(脳梗塞、心筋梗塞など)が報告されており、既往歴のある患者への投与は慎重に判断する必要があります。抗凝固薬を使用中の患者では出血リスクと血栓リスクのバランス評価が求められます。
参考:消化管穿孔の対処法と警告事項について詳しく解説
消化管穿孔(警告、重大な副作用)― 中外製薬
脱毛の発現時期について正確に患者へ伝えることは、心理的な備えとQOL維持の観点から欠かせません。これが基本です。
化学療法による脱毛は、毛母細胞が薬剤の影響を受けて毛周期が乱れることで発生します。具体的には、抗がん薬の初回投与から2〜3週間後に抜け始め、1か月前後でほぼ全頭の脱毛が生じることが多いです。頭髪だけでなく、まつ毛・眉毛・体毛なども影響を受ける場合があります。
この脱毛を引き起こす主役は、ベバシズマブとの併用薬です。たとえばパクリタキセル+ベバシズマブ療法の場合、脱毛はほぼパクリタキセルによるものです。FOLFOX+ベバシズマブの場合も、オキサリプラチンの脱毛発現率は38%程度とされています。
患者に「このレジメンでは〇〇という薬が脱毛を引き起こすこと、アバスチン(ベバシズマブ)自体は脱毛の主原因ではないこと」を丁寧に説明することで、患者の不必要な薬剤忌避を防げます。
脱毛の回復についても触れておくことが重要です。治療終了後3〜6か月で再発毛が始まることが多く、半年程度で回復してくるケースが多いです。ただし、毛質が変わる(くせ毛になるなど)患者も一定数います。事前にこの点を伝えておくことで、患者の不安を和らげられます。いいことですね。
説明の際は「これはいつか回復する副作用である」という見通しを伝えることがQOLケアの観点から非常に有効です。脱毛が始まる前に医療用ウィッグや帽子の検討を勧めることも、精神的余裕をもたせるために有効です。ウィッグの選定は、体調の良いうちに早めに行うことが実用的なアドバイスになります。
参考:抗がん剤投与後の脱毛時期と回復期間の目安
IRIS+Bevacizumab療法 患者説明資料(東海大学医学部附属病院)
脱毛は患者の自己イメージや社会生活に大きく影響する副作用のひとつです。数値的なリスクは小さくても、患者の主観的なつらさは非常に大きいケースがあります。これは見落としがちな視点です。
現在、化学療法に伴う脱毛を軽減する方法として、頭皮冷却(スカルプクーリング)が注目されています。抗がん薬の投与前・中・後に専用のキャップを装着して頭皮を冷却し、血流を低下させることで毛根への薬剤到達量を減らす方法です。一部の試験では脱毛量を約50%軽減できたとのデータも報告されています。
ただし、すべての薬剤レジメンに適応があるわけではありません。特に、頭皮への転移が懸念される血液がんや、頭皮冷却の効果が乏しい一部の薬剤では適応外となる場合があります。また、対応している施設が限られているため、施設内での運用状況を確認することが前提です。
医療用ウィッグについては、患者が脱毛前に準備できるよう、外来での情報提供が理想的です。ウィッグは、完全に脱毛した後よりも、自毛が残っているうちにオーダーまたはフィッティングすることで、より自然な仕上がりになります。また、健康保険の適用はありませんが、一部の自治体では購入費用の助成制度が設けられています。患者が住む自治体の制度を確認するよう案内することが実用的な支援になります。
脱毛に関するケアを「治療の周辺事項」として後回しにせず、治療計画の段階から患者へ情報提供することが、より質の高いサポートにつながります。これは使えそうです。担当薬剤師や看護師とのチーム連携で、事前のアピアランスケア相談窓口を案内することが今後の標準的な関わり方として推奨されます。
参考:頭皮冷却療法の効果・手順・注意点について
頭皮冷却療法とは(虎の門病院)
脱毛ほど注目されないものの、医療従事者が必ず押さえておくべきベバシズマブ固有の特性があります。それが創傷治癒遅延です。意外ですね。
ベバシズマブはVEGFを阻害するため、血管新生が必要な創傷の修復プロセスを遅らせます。外科手術前後に使用する際は特に注意が必要で、添付文書および中外製薬の適正使用ガイドでは以下のような目安が示されています。
| タイミング | 目安 |
|---|---|
| 術前の最終投与 | 手術の6週間以上前 |
| 術後の投与再開 | 手術から4週間以上経過後、創傷治癒が確認されてから |
この点を見落とすと、術後の傷が癒合せず感染リスクが高まります。患者が「抜き糸が遅い」「傷が治らない」と訴えてきたとき、ベバシズマブの使用歴を確認することが診断の糸口になります。
また、妊孕性についても知っておく必要があります。ベバシズマブ中止後にほとんどの患者で卵巣機能の回復が認められていますが、長期的な影響は不明とされています。妊娠を希望する年齢層の患者への説明では、必ず触れるべき情報です。
さらに、ベバシズマブは半減期が約20日と長いため、中止しても体内に残存する期間が長い点を考慮する必要があります。副作用が出た場合、薬を止めてもすぐに効果が消えるわけではありません。高血圧が治療中止後も続くケースや、創傷治癒遅延が持続するケースはこの薬物動態によるものです。これだけは覚えておけばOKです。
参考:アバスチン最終投与から手術までの間隔に関する公式FAQ
アバスチン最終投与から手術までの期間(中外製薬)
参考:VEGF阻害薬による高血圧の対処と降圧薬選択の考え方
分子標的薬による高血圧の対処法(東和薬品)