DEXA法(Dual Energy X-ray Absorptiometry)は、2種類の異なるエネルギーのX線を用いて骨密度を精密に測定する方法です。この方法は、X線が物質を透過する際に起こる減弱を利用しています。人体において、X線は骨や軟部組織で異なる減弱を示しますが、DEXA法では2種類の異なるエネルギーのX線を照射し、それぞれの減弱率の差から軟部組織での影響を取り除き、骨密度値を高精度で算出することができます。
骨と軟部組織のX線吸収率の差を利用することで、骨成分(カルシウムなどのミネラル)の量を正確に測定することができるのです。この原理により、骨粗鬆症の診断や治療効果の評価において、他の測定方法よりも信頼性の高い結果を得ることができます。
DEXA法で使用されるX線の量は極めて少なく、一般的な胸部レントゲン検査と同等かそれ以下の被ばく量です。そのため、患者さんへの負担も少なく、安心して検査を受けることができます。
測定機器は主にペンシルビーム、ワイドファンビーム、ナローファンビームなどのX線束を使用し、走査方式や検出方法には様々なタイプがあります。これらの機器の技術進化により、より短時間で高精度な測定が可能になっています。
DEXA法は骨密度測定法の中で最も精度が高く、日本骨粗鬆症学会のガイドラインでも推奨されている測定方法です。この高い精度が、骨粗鬆症の診断において信頼性の高いデータを提供します。
DEXA法の主な特徴として以下が挙げられます。
測定結果は主に若年成人平均値(YAM)との比較で表されます。YAMは、腰椎では20~44歳、大腿骨近位部では20~29歳の健康な女性の骨密度平均値を100%として、それに対して何%であるかを示す指標です。
日本の骨粗鬆症診断基準(2012年度改訂版)によれば。
DEXA法による骨密度測定は、これらの診断基準に基づく信頼性の高い評価を可能にします。特に、骨折リスクの高い腰椎や大腿骨近位部の直接測定が可能であることは、臨床的に非常に価値があります。
また、DEXA法は縦断的な経過観察にも適しており、骨密度の経時変化を正確に評価することができます。これにより、骨粗鬆症治療の効果判定や治療方針の見直しなどにも貢献します。
骨密度測定にはDEXA法以外にもいくつかの方法がありますが、それぞれ原理や特徴、適応が異なります。主な測定法との比較を見てみましょう。
【DEXA法 vs MD法】
MD法(microdensitometry)は、X線撮影した第二中手骨(人差し指の付け根から手首までの骨)の画像の濃淡や骨の幅から骨密度を評価する方法です。
DEXA法とMD法の比較。
特徴 | DEXA法 | MD法 |
---|---|---|
測定部位 | 腰椎・大腿骨近位部・前腕など | 第二中手骨 |
精度 | 非常に高い | 中程度 |
治療効果判定 | 適している | やや難しい |
設備・費用 | 専用装置が必要・高価 | 比較的簡便・安価 |
保険点数 | 360点(+大腿骨同時測定90点) | 140点 |
MD法は比較的簡便に測定できるため、DEXA装置のない医療機関でよく用いられています。しかし、骨粗鬆症治療薬による骨密度上昇効果の判定がDEXA法に比べて難しいという欠点があります。
研究によれば、MD法とDEXA法の総合評価は必ずしも相関せず、MD法の骨密度値は腰椎DEXAのBMD値よりも、むしろ踵骨SXAのBMD値とよく相関するとの報告もあります。
【DEXA法 vs QUS法】
QUS法(定量的超音波測定法)は、超音波をかかとの骨に当て、骨の中を伝わる超音波の速度から骨密度を間接的に評価する方法です。
DEXA法とQUS法の比較。
特徴 | DEXA法 | QUS法 |
---|---|---|
測定原理 | X線吸収 | 超音波伝播 |
測定部位 | 腰椎・大腿骨近位部・前腕など | 主に踵骨 |
診断への利用 | 骨粗鬆症診断に直接使用可能 | スクリーニング用途が主 |
被ばく | わずかにある | なし |
機動性 | 固定設置型が多い | ポータブル機器あり |
保険点数 | 360点(+大腿骨同時測定90点) | 80点 |
QUS法は放射線被ばくがなく、装置が比較的小型で可搬性があるため、検診などで骨折リスクを簡便にスクリーニングする方法として普及しています。しかし、骨粗鬆症の確定診断には使用されず、DEXA法などによる追加検査が必要になります。
その他、pQCT法(末梢骨定量的CT)やRAディジタル法などもありますが、骨粗鬆症の診断や経過観察において、DEXA法の高い精度と信頼性は他の方法を凌駕しています。特に治療効果判定において、DEXA法は感度が高く、微細な骨密度変化を捉えることができます。
DEXA法は高精度な骨密度測定法ですが、以下のような注意点や限界があります。医療従事者はこれらを理解した上で、適切に検査を実施し、結果を解釈する必要があります。
検査実施における注意点:
DEXA法の適応限界:
これらの場合、前腕DEXA法(座位で測定可能)の使用や代替検査の検討が必要になることがあります。
また、DEXA法で得られる骨密度は「面積当たりの骨量」を表す指標であり、真の「体積当たりの骨密度」とは異なることに注意が必要です。このため、小柄な人や大柄な人では、骨格サイズの影響を受けて結果が過小または過大評価される可能性があります。
さらに、骨密度だけでは骨強度の一部しか評価できない点も重要です。骨の微細構造や骨質などの要素も骨強度に影響するため、骨密度正常でも骨折リスクがある場合があります。近年ではこの課題に対応するため、TBS(Trabecular Bone Score)などの骨質評価も併用されるようになっています。
DEXA法の臨床応用は多岐にわたります。骨粗鬆症の診断や経過観察はもちろん、続発性骨粗鬆症のスクリーニング、骨折リスク評価、治療効果の判定など、骨代謝疾患の管理において中心的な役割を担っています。
特に注目すべき点は、近年のDEXA技術の進化により、骨密度測定だけでなく骨質評価も同時に行えるようになったことです。骨強度は「骨密度」と「骨質」の2つの要素で決定されますが、従来のDEXA法では「骨密度」のみの評価でした。
TBS(Trabecular Bone Score)による骨質評価
TBSは、DEXA画像から得られる腰椎DXA画像のテクスチャ解析により、骨の微細構造を間接的に評価する指標です。この技術により、同じ骨密度でも微細構造の違いによる骨強度の差を評価できるようになりました。
TBSのメリット。
例えば、同じ骨密度でも糖尿病患者は非糖尿病患者より骨折リスクが高いことが知られていますが、TBS評価によりその差が説明できるケースがあります。糖尿病患者では骨密度が保たれていても、TBSが低下している(骨の微細構造が劣化している)例が多いためです。
また、DEXA法とTBS評価を組み合わせることで、FRAX®(骨折リスク評価ツール)の精度も向上します。FRAXにTBSを組み込むことで、より正確な10年骨折リスク予測が可能になります。
その他のDEXA応用技術
現在のDEXA装置には、以下のような先進的な機能も搭載されるようになっています。
これらの技術の統合により、DEXA検査は単なる骨密度測定から、骨の健康を多角的に評価する総合的なツールへと進化しています。
骨折リエゾンサービス(FLS)とDEXA
近年注目されている骨折リエゾンサービス(FLS: Fracture Liaison Service)においても、DEXA法は重要な役割を果たしています。FLSは脆弱性骨折患者を対象に、二次骨折予防のための包括的なケアを提供するシステムです。
FLSにおけるDEXA検査の役割。
2022年からは診療報酬改定により骨粗鬆症リエゾンサービス料が新設され、DEXA法による骨密度測定と連携した骨粗鬆症診療の重要性がさらに高まっています。
医療従事者は、これらのDEXA技術の進化と新たな臨床応用を理解し、骨粗鬆症診療の質向上に役立てることが求められています。
DEXA法は今後も骨粗鬆症診療の中心的な検査法として発展し続けることでしょう。特に骨質評価との組み合わせにより、より精密な骨折リスク評価と個別化治療の実現が期待されています。