テプロツムマブの副作用と医療従事者が知るべき管理の要点

テプロツムマブ(テッペーザ)の副作用には聴覚障害・高血糖など重篤なものが含まれます。国内試験OPTIC-Jのデータや日本眼科学会ステートメントをもとに、医療従事者が実践すべき投与前・投与中の管理ポイントを詳しく解説します。あなたは適切なモニタリング体制を整えられていますか?

テプロツムマブの副作用と医療従事者が押さえるべき管理ポイント

HbA1cが6%台の患者でも、テプロツムマブ投与1回目でDKAを起こした報告があります。


🔍 この記事の3ポイント要約
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聴覚障害は国内試験で22.2%に発現

OPTIC-J試験では27例中6例に聴覚関連障害が発現。34.6%は未回復であり、不可逆例も報告されています。投与前・投与中の純音聴力検査が必須です。

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高血糖はHbA1c正常患者にも起きる

投与前HbA1cが6%台にもかかわらず、DKAを発症した症例が報告されています。糖尿病の既往がない患者でも投与中の血糖モニタリングは必須です。

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PMDAが4つの特定リスクを指定

聴覚障害・高血糖・注入に伴う反応・炎症性腸疾患の4つがRMPに明記されています。適正使用ガイドに沿った投与前チェックと患者への十分なICが求められます。


テプロツムマブの概要と副作用が注目される背景

テプロツムマブ(商品名:テッペーザ®)は、インスリン様成長因子-1(IGF-1)受容体を阻害するヒト型抗IGF-1受容体モノクローナル抗体です。2024年9月に国内で「活動性甲状腺眼症」を効能・効果として製造販売承認を取得し、同年11月に薬価収載されました。それまで活動性甲状腺眼症に対する根本的な治療手段はステロイドや放射線療法、手術に限られていたため、本剤の登場は眼球突出の改善を含む症状コントロールにおいて画期的といえます。


一方で、その作用機序であるIGF-1受容体阻害がもたらす全身への影響として、聴覚障害や高血糖といった特有かつ重篤な副作用が報告されており、医療従事者の間で高い関心を集めています。つまり、本剤の恩恵を最大限に活かすためには、副作用の特性を正確に理解した上での投与管理が不可欠です。


日本眼科学会や日本甲状腺学会・日本内分泌学会は2024年12月に合同でステートメントを発表し、聴覚関連障害と高血糖について特に注意を促しました。本記事ではこのステートメントおよびPMDAの審議結果報告書、適正使用ガイドを主要根拠として、医療現場で実践すべき副作用管理の要点を整理します。








































副作用カテゴリ 代表的な症状 OPTIC-J発現率(TEP群) PMDAリスク区分
聴覚関連障害 耳鳴、聴力低下、耳不快感、感音性難聴 22.2%(6/27例) ⚠️ 重要な特定されたリスク
高血糖・糖尿病 高血糖、耐糖能障害、DKA 22.2%(6/27例) ⚠️ 重要な特定されたリスク
注入に伴う反応(IR) 発熱、悪寒、頭痛、アナフィラキシー 3.7%(1/27例) ⚠️ 重要な特定されたリスク
炎症性腸疾患(IBD) 下痢、腹痛、血便(IBD増悪・新規発症) 報告あり(国内) ⚠️ 重要な特定されたリスク
その他(主な副作用) 筋痙縮、脱毛症、皮膚乾燥、味覚不全、頭痛 筋痙縮3.7%、脱毛症14.8%など ℹ️ その他の副作用


OPTIC-J試験では、TEP群27例のうち副作用が認められたのは14例(51.9%)にのぼり、プラセボ群の7.4%(2/27例)を大きく上回りました。これが基本です。


参考:テプロツムマブの適正使用に関するステートメント(日本眼科学会・日本甲状腺学会・日本内分泌学会、2024年12月)
日本眼科学会 甲状腺眼症ワーキンググループ・テプロツムマブ適正使用ステートメント(PDF)


テプロツムマブの副作用として最重要:聴覚障害の実態とリスク因子

聴覚障害はテプロツムマブの副作用の中でも特に注意が必要です。国内第3相臨床試験(OPTIC-J)では27例中6例(22.2%)に聴覚関連障害が認められており、プラセボ群では0例でした。また、OPTIC・OPTIC-X試験など18の独立した臨床研究を統合した解析では、645例中149例(23.1%)に聴覚関連障害が報告されています。


症状の幅は広く、軽度の一側性耳閉感から両側性高度難聴まで多様です。特に高音域(拡張高周波数域)を中心とした感音難聴が多く、日常会話では自覚症状がないまま聴力が低下していることもあります。意外ですね。転帰が確認できた81例のうち53例(65.4%)は回復しましたが、28例(34.6%)は未回復であり、補聴器が必要となった重篤例も12例(14.8%)に達しました。


重篤化のリスク因子として現在報告されているものは以下の通りです。



  • 🔴 年齢が高い:高齢者ほど悪化しやすい傾向が報告されています。

  • 🔴 投与前からの聴力異常:既存の耳鳴、先天難聴の既往歴が重篤化と関連。

  • 🔴 音響外傷の環境リスク:騒音環境下での業務歴なども重症例の特徴として挙げられています。

  • 🟡 発症時期:発症の平均期間は投与3.7±0.8回目であり、投与開始後3〜4回目ごろが特に注意が必要な時期です。


作用機序の面から見ると、IGF-1は蝸牛有毛細胞の発生・分化や後天的な障害に対して保護的に働くことが知られています。テプロツムマブがIGF-1受容体を阻害することで、この保護作用が失われ、感音難聴を引き起こす可能性があると考えられています。これは聴力低下が「薬の標的経路」と直結した副作用であることを意味しており、予防的なモニタリングが特に重要になる理由です。


聴覚障害への対応が可能な体制が整っていない医療施設では、投与前に耳鼻咽喉科専門医への紹介と診察を行い、投与継続の適否を判断することが求められます。耳鼻科との連携体制の構築が条件です。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も2025年1月に連携体制の構築に関する通知を発出しており、診療科横断での情報共有が今後の課題となっています。


参考:テプロツムマブによる聴覚障害に対する連携体制の構築について(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会、2025年1月)
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会:テプロツムマブと聴覚障害に関する注意喚起(2025年1月)


テプロツムマブの副作用モニタリング:聴力検査と血糖管理の実施タイミング

テプロツムマブを投与するにあたり、副作用を見逃さないためのモニタリング体制を事前に整えることが、医療従事者に求められる最重要事項のひとつです。適正使用ガイドに定められた確認事項は、投与前と投与中で明確に分かれています。


投与前に行うべき確認事項:


  • 🔷 聴力検査(純音聴力検査を含む)の実施:ベースラインを記録しておくことで、投与後の変化を客観的に評価できます。

  • 🔷 HbA1c・血糖値のスクリーニング:耐糖能異常を事前に把握し、糖尿病や境界型の患者では血糖コントロールを開始してから投与を検討します。

  • 🔷 炎症性腸疾患(IBD)の既往確認:潰瘍性大腸炎やクローン病がある患者では、投与の適否を慎重に判断します。

  • 🔷 妊娠の可能性の確認と避妊指導:動物試験で催奇形性が確認されており、投与中および最終投与後5カ月間の避妊が必要です。

  • 🔷 患者へのインフォームドコンセント:特に聴覚障害・高血糖のリスクについて文書を用いて説明し、理解を確認します。


投与中に継続すべき確認事項:


  • 🔶 定期的な純音聴力検査:投与のたびに変化を評価し、悪化が認められた場合は投与継続の適否を再判断します。

  • 🔶 血糖値・HbA1cの定期測定:高血糖の自覚症状(口渇・多飲・多尿)の有無の問診とあわせて、各投与タイミングで確認します。

  • 🔶 注入中のモニタリング:Infusion reaction(IR)は投与中から投与後24時間以内に起こりえます。発熱・悪寒・血圧変動などをその場で観察します。

  • 🔶 IBD症状の観察:腹痛・下痢・血便などIBD増悪のサインを毎回の問診で確認します。


投与時間は原則90分ですが、忍容性が十分に確認された3回目以降は60分への短縮が認められています。IR歴のある患者では次回以降、抗ヒスタミン薬・解熱薬・副腎皮質ステロイドの前投薬と投与速度の調整が推奨されます。これは使えそうです。


参考:テッペーザ適正使用ガイド(アムジェン株式会社)
テッペーザ適正使用ガイド(医療従事者向け、アムジェンプロ)


テプロツムマブの副作用で見落としやすい高血糖:HbA1c正常例にも発症するメカニズム

高血糖はテプロツムマブの副作用として、医療従事者が特に警戒しなければならないリスクです。国内OPTIC-J試験では、TEP群の22.2%(6/27例)に高血糖関連の副作用が報告されました。これはプラセボ群の3.7%(1/27例)と比較して明確に高い頻度です。


重篤例として現在までに世界で4例の報告があります。重要なのは、4例全員の投与前HbA1cが6%台(6.1〜6.8)と「正常〜境界域」の水準であったにもかかわらず、投与1〜4回という比較的早期の段階でケトーシスを伴う重篤な高血糖を発症している点です。発症時の血糖値は700〜950 mg/dLに達しており、いずれもインスリン投与が必要でした。











































報告例 年齢・性別 投与前HbA1c TEP投与回数 発現時血糖値 治療
Shah et al. 56歳女性 6.1 1回目 939 mg/dL インスリン→メトホルミン
Amarikwa et al. 記載なし 3回目 920 mg/dL インスリン
Cottom et al. 72歳女性 6.8 3回目 954 mg/dL インスリン
Carter et al. 76歳男性 6.3 4回目 713 mg/dL インスリン→メトホルミン


なぜHbA1c正常でも高血糖が起きるのか? そのメカニズムとして現在有力視されているのは、IGF-1受容体とインスリン受容体が形成するハイブリッド受容体へのテプロツムマブの結合です。この結合によってインスリン受容体シグナルが間接的に阻害され、インスリン抵抗性が亢進すると考えられています。つまり、既存の血糖管理状態に関係なく、薬理学的機序として血糖上昇が起こりうるということです。


糖尿病を有する患者への海外臨床研究では、血糖正常の22例では介入を要する高血糖が出なかったのに対し、糖尿病を有する10例のうち9例で投薬変更などの介入が必要でした。糖尿病患者は特にハイリスクが原則です。ただし上記の重篤例が示す通り、正常範囲のHbA1cだからといって安心はできません。


1型糖尿病患者へのテプロツムマブ使用に関しては、現時点では参考にできる情報がほぼ存在しない状態です。少なくとも使用する場合は、血糖推移やインスリン必要量の変化に速やかに対応できる体制を先に整えておくことが不可欠と考えられています。


参考:テプロツムマブ関連高血糖の詳細報告(Amarikwa et al., J Clin Endocrinol Metab, 2023)
日本糖尿病学会:テプロツムマブ適正使用ステートメント(第一報)ページ


テプロツムマブの副作用と他の副作用(炎症性腸疾患・注入反応・胚胎児毒性)への対応

聴覚障害・高血糖と並んで、PMDAがRMPに明記しているもう2つのリスク、炎症性腸疾患(IBD)と注入に伴う反応(Infusion reaction)についても適切な管理が求められます。


🟠 炎症性腸疾患(IBD)


テプロツムマブは潰瘍性大腸炎やクローン病などのIBDを新規発症させる、あるいは既存のIBDを増悪させる可能性があります。IBDの既往がある患者に投与する場合は、疾患の現在の状態を十分に確認した上で適否を慎重に判断することが求められます。投与中にIBDの悪化を疑う症状(腹痛、血便、頻回の下痢など)が出現した場合は、休薬または投与中止を含む適切な処置を行います。IBD患者には特に念入りな問診が条件です。


🟠 注入に伴う反応(Infusion reaction)


テプロツムマブはタンパク質製剤であるため、点滴投与中にアナフィラキシーを含むアレルギー反応が起こる可能性があります。OPTIC-J試験での発現率は3.7%(1/27例)でしたが、重度のアナフィラキシーが発生した場合は直ちに投与を中止し、エピネフリン投与など緊急処置を講じる準備が必要です。IRの既往がある患者では次回以降、抗ヒスタミン薬・解熱薬・副腎皮質ステロイドを前投薬し、注入速度を遅くすることで再発を予防します。なお、IRが発現しても忍容性が確認できれば投与継続は可能ですが、判断は個々の状況に応じて慎重に行います。


🟠 胚・胎児毒性(重要な潜在的リスク)


カニクイザルを用いた動物試験では、臨床用量の約8.8倍相当の曝露量で胎児死亡・胎児重量低値・頭蓋形成異常などの催奇形性が確認されています。ヒトへの影響は現時点では報告されていませんが、妊婦への投与は禁忌です。妊娠する可能性がある女性患者には、投与中および最終投与後5カ月間の避妊を説明し、文書で確認を行います。必要に応じて投与前に妊娠検査を実施します。


🟡 その他の主な副作用(高頻度)


これら4つの重篤リスク以外にも、日常的に観察が必要な副作用は複数存在します。脱毛症(14.8%)、筋痙縮・筋骨格硬直(7.4%)、下痢(7.4%)、味覚不全(3.7%)、頭痛(3.7%)、爪の変化(3.7%)、月経不順(3.7%)などがOPTIC-J試験で報告されています。これらの多くは軽度〜中等度であり、投与中止には至らないケースがほとんどです。ただし脱毛症や味覚変化は患者のQOLに影響しやすく、事前の説明と定期的な問診が重要です。


参考:テッペーザ点滴静注用500mg 医薬品リスク管理計画(PMDA公開資料)
テッペーザ RMPサマリー(PMDA掲載)


テプロツムマブ副作用管理の独自視点:診療科間の情報共有体制が"副作用の重篤化リスク"を左右する

テプロツムマブの副作用管理において、現時点で最も見落とされやすいリスクのひとつが「診療科の縦割りによる情報の分断」です。本剤を処方するのは眼科または内科(内分泌科)が中心ですが、副作用として生じる聴覚障害は耳鼻咽喉科の領域、高血糖は内分泌・糖尿病内科の領域、IBD増悪は消化器内科の領域にまたがります。


患者が「耳が聞こえにくい」と感じて耳鼻科を受診した際、処方した眼科医や内科医がテプロツムマブ投与中であることをその耳鼻科医に伝える仕組みがなければ、副作用との因果関係が見逃されるリスクがあります。痛いですね。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が2025年1月に発出した通知でも、「本薬剤の使用開始にあたり、耳鼻咽喉科と眼科・内科との連携体制を構築すること」が明示的に求められています。


実際にテプロツムマブの副作用管理で注目されているのが、聴覚障害発症が平均投与3.7回目(±0.8回)というタイミングです。3回目と4回目の投与前後に集中してスクリーニングを強化するという戦略は、医療リソースを効率的に使いながら発見率を高める上で合理的です。


具体的な連携モデルとして有効なのは、テプロツムマブ投与計画を立てる段階(投与前)に、耳鼻咽喉科・内分泌科・(必要に応じて)消化器内科への情報提供と診察依頼を行う「多科連携プロトコル」をあらかじめ施設内で整備することです。診療録への投与情報の記載と共有が基本です。特に総合病院や大学病院以外の施設では、院外連携の枠組みを事前に確認しておくことが副作用の重篤化予防につながります。


高音域を中心とした聴力低下は日常生活では無症状のまま進行することもあります。患者からの自発的な訴えだけを待つ受動的な管理では不十分であり、定期的な純音聴力検査(特に高周波数域を含む拡張検査)を能動的に組み込むことが、テプロツムマブを安全に使用するための前提条件といえます。


参考:テプロツムマブによる聴覚障害に対する連携体制の構築について(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会:聴覚障害の連携体制に関する重要通知(2025年1月)