ステージ2のがん治療において、抗がん剤治療の適応は慎重に検討される必要があります。日本のガイドラインでは、ステージ2大腸がんに対する術後補助化学療法は「再発リスクが高い場合に行うことが弱く推奨」されており、全例に一律に実施するものではありません。
参考)https://doctorbook.jp/contents/138
術後補助化学療法の適応判断において最も重要なのは、病理学的ステージに基づく評価です。手術前の臨床的ステージではなく、手術後に病理組織検査で判明した病理分類ステージをもとに治療方針を決定します。これは、実際の病変の広がりや浸潤の程度をより正確に把握できるためです。
国際的なガイドラインでは、ASCOやESMOのガイドラインにおいて、ステージ2大腸がんの高リスク因子として以下の項目が規定されています:
参考)https://www.jsccr.jp/project/proj_stage2.html
ステージ2大腸がんにおけるハイリスク因子の評価は、術後補助化学療法の適応を決定する上で極めて重要です。しかし、欧米と日本ではリンパ節郭清の範囲や病理学的検索方法、ステージの分布が異なるため、海外のガイドラインで記載されているハイリスク因子が日本の大腸がん治療にそのまま適用できるかは不明確な部分があります。
参考)https://gi-cancer.net/gi/ronbun/archives/202101-01.html
日本大腸癌研究会では、日本の臨床データに基づいたステージ2におけるハイリスク群の抽出を目的とした研究が進められています。この研究は、日本特有の医療環境や患者背景を考慮した、より適切なリスク評価基準の確立を目指しています。
T4病変(隣接臓器への浸潤)は、最も重要なハイリスク因子の一つとされています。T4病変を有するステージ2結腸がん患者では、術後補助化学療法の効果が明確に示されており、積極的な治療適応が推奨されます。
脈管侵襲の存在も重要な予後因子です。血管侵襲やリンパ管侵襲が認められる場合、微小転移のリスクが高まるため、術後補助化学療法の適応を強く考慮する必要があります。
郭清リンパ節個数が12個未満の場合も、ハイリスク因子として重要視されています。これは、適切なリンパ節郭清が行われていない可能性や、微小転移の見落としリスクがあることを示唆しているためです。
ステージ2がんに対するオキサリプラチンベース補助療法の選択は、慎重な検討が必要です。MOSAIC試験のpost-hoc解析では、ステージ2結腸がんにおいてはオキサリプラチンの上乗せ効果は認められませんでした。しかし、再発危険因子を有するハイリスクステージ2の患者においては、FOLFOXの治療成績が5-FU+LVよりも良好な傾向を示しており、治療選択肢として検討される価値があります。
代表的なオキサリプラチンベース療法には以下があります。
FOLFOX療法
CAPOX療法
参考)https://gantaisaku.net/crc_adjuvant/
これらの治療法の選択においては、患者の年齢、全身状態、合併症、社会的背景なども総合的に考慮する必要があります。
ステージ2がんに対する抗がん剤治療期間の最適化は、治療効果と副作用のバランスを考慮した重要な課題です。特にオキサリプラチンベースの術後補助化学療法では、末梢神経障害(PSN)が大きな問題となります。
ACHIEVE-2試験では、ハイリスクステージ2結腸がんに対するmFOLFOX6/CAPOXの術後補助化学療法において、3ヶ月投与と6ヶ月投与の比較検討が行われました。この試験の結果、3ヶ月投与では:
副作用軽減効果
治療効果の維持
末梢神経障害は、手足のしびれや感覚異常として現れ、患者の日常生活に大きな影響を与えます。この副作用は治療中止後も長期間持続することが多く、患者のQOL低下の主要因となります。
CAPOXレジメンは、mFOLFOX6と比較して長期持続するPSNの発生率が有意に低いことが報告されており、外来治療の利便性と併せて、治療選択の重要な要素となっています。
近年、ステージ2がん治療においても分子標的薬や個別化医療の重要性が高まっています。特に、がん細胞の遺伝子変異や発現プロファイルに基づいた治療選択が注目されています。
HER2陽性胃がんの場合
HER2陽性の胃がんでは、トラスツズマブを加えた治療が標準となっています。「S-1またはカペシタビン+シスプラチン+トラスツズマブ」や「S-1またはカペシタビン+オキサリプラチン+トラスツズマブ」が選択肢となります。
参考)https://www.cancernet.jp/cancer/gastric/gastric-nresectable
BRAF変異陽性固形がん
BRAF V600E/R変異やnon-V600 BRAF変異を有する進行固形がんに対して、ダブラフェニブとトラメチニブの併用療法が検討されています。このような分子標的治療は、従来の化学療法とは異なるメカニズムでがん細胞を攻撃します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10850114/
抗体薬物複合体(ADC)
TROP-2を標的とするADCなど、新世代の抗体薬物複合体が開発され、従来の治療に抵抗性を示すがんに対しても効果が期待されています。これらの薬剤は、抗体の特異性と化学療法薬の細胞傷害性を組み合わせた革新的な治療法です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11629093/
マイクロサテライト不安定性(MSI)や腫瘍変異負荷(TMB)などのバイオマーカーに基づく免疫療法の適応判断も、個別化医療の重要な要素となっています。
ステージ2がん治療における革新的アプローチとして、いくつかの新しい治療戦略が臨床試験で検討されています。
ポリマーミセル製剤
NK012は、SN-38(イリノテカンの活性代謝物)のポリマーミセル製剤として開発され、切除不能転移性大腸がんに対する第II相試験が実施されました。この製剤技術により、薬剤の安定性向上と副作用軽減が期待されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6267673/
術前術後補助療法の組み合わせ
食道扁平上皮がんにおいて、術前化学療法後の手術に続いてS-1による術後補助療法を追加するPIECE試験が行われています。このような集学的治療アプローチは、治療成績の向上を目指した新しい戦略です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11659372/
併用療法の最適化
進行胃がんや食道胃接合部腺がんに対するFTD/TPI(トリフルリジン・チピラシル)とラムシルマブの併用療法(RETRIEVE研究)など、既存薬剤の新しい組み合わせによる治療効果の向上が検討されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10403909/
腫瘍溶解ウイルス療法
先端治療として、腫瘤溶解ウイルス療法が注目されています。この治療法は、ウイルスががん細胞にのみ感染して死滅させる仕組みを利用しており、正常細胞への害が少ないことが特徴です。点滴による全身投与が可能で、見えないがん細胞にも効果を発揮する可能性があります。
参考)https://chuoclinic.jp/stage-cancer-treatment/stage2/
これらの新規治療アプローチは、従来の標準治療では十分な効果が得られない患者や、副作用により標準治療が困難な患者に対する新たな選択肢となる可能性があります。