リファンピシン耐性株でもリファブチンが効くケースが約30%あります。
リファブチン(商品名:ミコブティン)は、リファマイシン系抗菌薬に分類される経口抗酸菌症治療薬です。その中核をなす作用機序は、細菌のDNA依存性RNAポリメラーゼ(RNAP)への特異的な結合です。
具体的には、RNAPのβサブユニットに結合し、転写されたRNA鎖が3〜4塩基長になった段階でそれ以上の伸長反応を遮断します。つまり、細菌がタンパク質合成に必要なmRNAを作れなくなるため、増殖が停止します。これが基本の殺菌作用です。
注目すべきは、リファブチンがRNAPβサブユニットだけでなく、σサブユニットとも相互作用する点です。リファマイシン系薬剤の化学構造上、アンサ環のC3位のみに置換基をもつリファンピシンはσサブユニットとの相互作用を生じません。一方、C3位とC4位の両方に置換基をもつリファブチンはσサブユニットにも結合し、RNAPとの結合をより安定化させます。この仕組みが、後述するリファンピシン耐性菌への有効性につながっています。
つまり「RNA合成阻害」が原則です。ただし、その阻害の深さと幅がリファンピシンとは異なることを頭に入れておく必要があります。
参考:PMDA審査報告書(リファブチン非臨床薬理データ)
リファブチン 審査報告書(PMDA)― 作用機序・非臨床試験データを詳細に収録
「リファンピシンが効かなければリファブチンも無効」と考えている医療従事者は少なくありません。しかし、この認識は不正確です。
In vitro試験において、リファブチンは5μg/mLという濃度でリファンピシン耐性*Mycobacterium tuberculosis*のDNAへのチミジン取り込みを阻害することが確認されています。細胞内移行性とCmaxを考慮すると、標準的な臨床用量においても、細胞内で増殖するリファンピシン耐性菌に対してはDNA依存性RNAポリメラーゼの阻害に加えてDNA合成をも阻害する可能性が示唆されているのです。
実際、リファンピシン耐性株(臨床分離株)におけるリファブチン耐性率は、サンフォード感染症治療ガイドに基づくと約30%がリファブチンに感受性をもつと記載されています。国内データでは耐性率が高め(約50%がリファブチン耐性)との報告もありますが、完全な交差耐性は成立しないということが重要なポイントです。これは使えそうです。
この「不完全な交差耐性」の分子レベルの理由は、rpoB遺伝子の変異部位に依存します。例えばコドン526(His)がGly・Glu・Leuに変異した株は「リファンピシン耐性・リファブチン感受性」という表現型を示します。一方、同じコドン526でもTyr・Pro・Arg・Aspへの変異は両薬に交差耐性を示します。変異部位によって運命が分かれる、というわけです。
参考:結核 Vol.85 No.10(新規抗酸菌症治療薬リファブチン)
結核学会誌(2010年)― リファブチンの非臨床・臨床試験成績を網羅した国内文献
マイコバクテリウム属の細菌は、マクロファージなどの細胞内で増殖するという厄介な特性を持ちます。これが治療を長期化させる根本的な原因のひとつです。
リファブチンは脂溶性が高く、この「細胞の壁」を越える能力に優れています。HIV感染者への静脈内投与時の定常状態における分布容積は8〜9 L/kgに達します。これは体内総水分量(約0.6 L/kg)の約14倍という広大な分布域を意味します。東京ドームの床面積が約13,000m²とすると、14個分の空間に薬が広がるようなイメージです。
定量的なデータとして、マウスマクロファージ内のリファブチン濃度は細胞外濃度の11倍、ヒト単球では14.6倍、ヒト好中球では9.4倍に達することが報告されています。これに対してリファンピシンの細胞内濃度は細胞外の3.75〜5倍程度であり、リファブチンの細胞内移行性がいかに高いかがわかります。
また、肺組織中濃度は血漿濃度の5.6〜6.8倍と報告されており、肺を主な感染巣とするMAC症や結核症において薬剤が確実に届く根拠となっています。細胞内移行性が鍵です。半減期も17〜20時間と長く、1日1回投与で安定した組織内濃度を維持できる点も、長期治療において患者アドヒアランスを支える要素として評価されています。
リファブチンとリファンピシンは同じリファマイシン系であるため、「薬物相互作用もほぼ同じ」と思われがちです。厳しいところですが、この認識がそのまま処方エラーや治療効果不足につながるリスクがあります。
最大の違いはCYP3A4誘導能の強さです。両薬をアンチピリンと繰り返し併用投与した比較試験では、尿中6-β-hydroxycortisol排泄量などの酵素誘導指標の変化率はリファンピシンの方が一貫して高く、リファブチンの酵素誘導能はリファンピシンより明らかに弱いことが確認されています。
この差が臨床に与える影響は非常に大きいです。
| 比較項目 | リファブチン | リファンピシン |
|---|---|---|
| CYP3A4誘導能 | 弱い(リファンピシンの約1/10) | 強い |
| 抗HIV薬(PI系)との併用 | 用量調整で可能 | 基本的に禁忌 |
| 経口避妊薬への影響 | 効果減弱(要注意) | 同様(より強い) |
| タクロリムスへの影響 | 血中濃度低下(拒絶反応リスク) | 同様(より強い) |
| MACに対するMIC90 | 1.56 μg/mL | 50 μg/mL(32倍差) |
ただし「弱い」とはいえ、CYP3A4誘導がゼロではない点には注意が必要です。経口避妊薬との併用では避妊効果が減弱し、不正性器出血が増加する可能性があります。臓器移植後にタクロリムスを使用している患者にリファブチンを処方する場合は、タクロリムスの血中濃度が低下して拒絶反応が出現するリスクを見越したモニタリングが必須です。これが条件です。
また、プロテアーゼ阻害薬(PI)やアゾール系抗真菌薬は逆にCYP3A4を阻害するため、これらと併用するとリファブチン自体の血中濃度が上昇します。アタザナビル・リトナビルとの併用ではリファブチンを1/4量に減量することが推奨されています。
参考:添付文書(ミコブティンカプセル150mg、JAPIC)
ミコブティン添付文書(JAPIC)― 相互作用一覧と用量調整基準を掲載
リファブチンの副作用として最初に思い浮かぶのは、白血球減少症(頻度6.06%)や肝機能異常(同1.93%)などの全身性副作用かもしれません。これらは確かに重要です。
しかし、臨床現場で最も見落とされやすく、かつ深刻な結果につながりやすい副作用は「ぶどう膜炎」です。添付文書上は「頻度不明」と記載されていますが、プロテアーゼ阻害薬やアゾール系抗真菌薬との併用によりリファブチン血中濃度が上昇した場合、発現頻度は8%に達するとのデータがあります(安全性概括評価より)。また、クラリスロマイシンとリファブチン450mg以上を併用した際にぶどう膜炎の発現が顕著に増加することが知られています。
ぶどう膜炎の初期症状は「飛蚊症」「充血」「視力のぼやけ」など、患者が軽視しがちなものばかりです。抗酸菌症の治療中は全身管理に注意が集中しやすく、眼症状が見落とされることは珍しくありません。
意外ですね。日常の確認が視力を守る第一歩になります。
以下の副作用は出現頻度・重篤性を踏まえて特に注意が必要です。
副作用管理において、特に「他の薬と併用している患者への細かい問診と血中濃度モニタリング」が重要になります。リファブチン単独では問題なくても、後から併用薬が追加された際に血中濃度が跳ね上がるケースがあります。処方変更のたびに相互作用を再確認する習慣が身を守ります。
参考:日本眼科学会誌(ぶどう膜炎の症例報告)
日本眼科学会誌(2011年)― リファブチンによるぶどう膜炎3症例の詳細報告