H2ブロッカーを腎機能低下患者に通常用量で投与し続けると、見当識障害やQT延長を招くことがあります。
ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)は、胃壁細胞のH2受容体に対してヒスタミンと競合的に結合することで、胃酸分泌を抑制する薬剤です。胃酸分泌には「ヒスタミン・ガストリン・アセチルコリン」の3経路が関わりますが、ヒスタミン経路は他の2経路を介した分泌にも相乗的に寄与するため、H2受容体をブロックするだけで胃酸分泌全体を幅広く抑える効果が得られます。
H2ブロッカーが登場する1982年(シメチジン発売)以前、胃潰瘍は外科的切除を必要とするケースが多く存在していました。H2ブロッカーの登場はその状況を劇的に変化させ、胃潰瘍の手術件数を大幅に減少させた、まさに消化性潰瘍治療の転換点となった薬剤群です。
H2ブロッカーの薬理学的な特徴として特に重要なのは、「夜間の基礎胃酸分泌を強く抑える」という点です。夜間(空腹時)はヒスタミンを介した胃酸分泌の比率が相対的に高くなるため、H2ブロッカーは就寝前投与で高い効果を発揮します。つまり就寝前投与が原則です。一方でPPIは食後(食事刺激後)の胃酸分泌を強力に抑えますが、夜間の酸分泌抑制は相対的にH2ブロッカーに劣ります。この「夜間」対「食後」という特性の違いが、臨床での使い分けの根拠となっています。
代表的な成分としては、ファモチジン(ガスター®)、シメチジン(タガメット®)、ニザチジン、ロキサチジン酢酸エステル塩酸塩、ラフチジンなどが挙げられます。このうちラフチジン以外のH2ブロッカーはほぼ未変化体として腎臓から排泄される「腎排泄型」です。ラフチジンは肝代謝が主であるという点で、ほかの成分と一線を画す例外的存在です。
| 成分名 | 代表的商品名 | 排泄経路 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| ファモチジン | ガスター® | 腎排泄型 | 最も広く使われる。腎機能低下時は減量必須 |
| シメチジン | タガメット® | 腎排泄型 | CYP1A2・2D6・3A4を阻害→薬物相互作用が多い |
| ニザチジン | アシノン® | 腎排泄型 | 肝機能障害例での代替に使われることあり |
| ラフチジン | プロテカジン® | 肝代謝型 | 腎機能低下例でも用量調整が比較的少ない |
| ロキサチジン | アルタット® | 腎排泄型 | 腎機能低下時は注意 |
参考:胃酸分泌抑制剤における薬学的ケアと成分別の特徴についての実臨床事例
日本病院薬剤師会誌「胃酸分泌抑制剤(H2受容体拮抗剤とプロトンポンプ阻害剤)における薬学的ケア」(日病薬誌 第45巻1号)
H2ブロッカーとプロトンポンプ阻害薬(PPI)はどちらも胃酸分泌を抑制しますが、作用機序・酸分泌抑制力・保険上の取り扱いに明確な差があります。PPIはプロトンポンプを不可逆的に阻害するため、胃酸分泌抑制効果がH2ブロッカーより強力です。
治癒率の面では、逆流性食道炎においてはPPIが約90%、H2ブロッカーが約70%前後とされており、特に酸によるダメージが強い病態ではPPIが優位です。これは数値の差で言えば、10人治療したとき2人分の治癒率の差とも言い換えられます。これは臨床的に無視できない差です。
保険上の投与期間についても押さえる必要があります。
投与期間はどちらも共通している、と思われがちですが、適応疾患ごとに微妙な差があります。たとえばH2ブロッカーには「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」の適応がありません。この点でPPIやP-CABとは異なります。
また、H2ブロッカーにはNSAIDs潰瘍の「一次予防」の保険適応がない点も重要です。一部ガイドラインでは予防効果が認められているにもかかわらず、適応外使用となるため、レセプト審査で切られるリスクがあります。一次予防に保険適応があるのは現時点では日本には存在せず、二次予防(再発抑制)の適応を持つ薬剤を選ぶのが原則です。
H2ブロッカーとPPIの最も大きな違いのひとつが、「夜間の胃酸抑制」です。PPIは食事刺激後の胃酸を強力に抑制しますが、就寝中の夜間胃酸分泌に対しては効果が減弱する「Nocturnal Acid Breakthrough(NAB)」という現象が起きることが知られています。NABは「PPI投与中にもかかわらず、夜間に胃内pHが4以下となる時間が1時間以上連続して認められる場合」と定義されます。難治性逆流性食道炎でNABが問題になる場合、以前は就寝前のH2ブロッカー追加が試みられていました。しかし1週間程度で効果が減弱するという報告があり、現在のガイドラインではPPIの倍量・2回投与またはボノプラザンへの変更が推奨されています。
参考:H2ブロッカーとPPIの機序・適応・用量調整の詳細解説
みどり病院薬剤科ブログ「消化性潰瘍の話その2〜胃酸を止めるH2ブロッカーとPPI、P-CAB」
腎機能低下患者へのH2ブロッカー投与は、見落とされやすい重大なリスクポイントです。ファモチジンをはじめ、ラフチジンを除くH2ブロッカーの大部分は腎排泄型であり、腎機能が低下すると血中濃度が上昇し続けます。
実際の臨床報告では、腎機能低下患者(血清クレアチニン3.00mg/dL)にファモチジン40mg分2で投与が続けられた結果、見当識障害が出現したケースが記録されています。脳転移を疑ってMRIまで施行されましたが、原因はファモチジンの過量投与であったことが後に判明しました。ラフチジンへの変更後、3日で見当識障害が消失しています。
別の事例では、クレアチニンクリアランスが7.33mL/minの患者に通常用量のファモチジン注射が投与され続け、QT延長・徐脈(心拍数が一時30台)が出現した症例が報告されています。正常の腎機能なら適切な用量でも、腎機能が大幅に低下した状態では過量投与になってしまいます。腎機能に合わせた減量が条件です。
ファモチジンの腎機能別投与量の目安は以下の通りです。
| Ccr(mL/min) | 投与量の目安 |
|---|---|
| 60以上 | 通常量(20mg 1日2回 等) |
| 30〜60未満 | 減量または投与間隔延長を考慮 |
| 30未満 | 1日10mg または隔日投与 |
| 透析(HD)患者 | 透析後に投与(透析で除去されるため) |
高齢者については日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」においても、H2ブロッカーは認知機能低下・せん妄のリスクがあるとして「可能な限り使用を控えることが望ましい」とされています。筋肉量の少ない高齢者は血清クレアチニン値が見かけ上低くなることがあり、Cockroft-Gault式でCcrを計算しても実態より過大評価されやすい点に注意が必要です。
腎機能低下例や高齢者でどうしても胃酸分泌を抑制したい場合、ラフチジンへの変更か、肝代謝型のPPIへのスイッチを検討することが臨床的に有用な選択肢になります。これは使えそうな知識です。
参考:腎機能低下時のファモチジン過量投与による副作用回避の実症例
愛媛大学医学部附属病院「腎障害患者へのファモチジン中止による副作用回避」
H2ブロッカーの長期投与で生じる「タキフィラキシー(急性耐性)」は、処方継続を判断する上で重要な概念です。タキフィラキシーとは薬剤への耐性が急速に形成される現象であり、H2ブロッカーでは連用開始から数週間以内に酸分泌抑制効果が減弱し始めるとされています。
長期連用では「飲んでいるのに効いていない」という状態になります。特に胃潰瘍の維持療法や症状が落ち着いた後の継続投与においては、処方が漫然と続けられるケースがあります。処方目的の定期的な見直しが原則です。
タキフィラキシーが問題になった場合、H2ブロッカーを漫然と続けるのではなく、症状が落ち着いている時期には「頓服的な使用」に切り替えるか、PPIへのスイッチを検討することが一般的です。
ここで注意が必要なのが、H2ブロッカーとPPIの「原則併用不可」というルールです。社会保険診療報酬支払基金の平成29年9月25日通達では、「H2ブロッカーとPPIの併用投与は原則認められない」と明示されています。
「H2ブロッカーとPPIは同効の薬剤であり、それぞれが単独使用で所期の効果は期待できる。(中略)したがって、H2ブロッカーとPPIの併用投与は、原則認められないと判断した。」
(社会保険診療報酬支払基金 平成29年9月25日通達より抜粋)
例外として認められるのは「服用時点が異なる(例:PPIを3月31日まで、H2ブロッカーを4月1日から)ことが症状詳記から判断できる場合」などに限られます。つまり、切り替え期間中に両剤が処方された状態でも、切り替え目的であることが明示されていれば認められます。
注意すべきは、「夜間のみH2ブロッカーを追加」という処方パターンです。NABに対する対策として臨床的には一定の根拠がある選択に見えますが、保険審査では原則不可と判断される可能性があり、査定リスクが伴います。このような処方を検討する場合は症状詳記を丁寧に作成することが、保険請求上の自衛策となります。
参考:PPIとH2ブロッカーの併用可否・ガイドラインおよびレセプト審査上の注意点
みどり病院薬剤科ブログ「消化性潰瘍の話6〜PPI+H2ブロッカーの併用はどうしてダメ?」
H2ブロッカーの中でも、シメチジン(タガメット®)は薬物相互作用において特別に注意が必要な成分です。シメチジンはCYP1A2・CYP2D6・CYP3A4など複数のCYP分子種を阻害することが確認されており、これはほかのH2ブロッカーにはない特徴です。
具体的に相互作用の問題が生じやすい薬剤の組み合わせとして、ワルファリン・テオフィリン・フェニトイン・プロカインアミドなどが挙げられます。シメチジンとワルファリンを併用した場合、ワルファリンの血中濃度が上昇して出血症状が出現した症例も報告されており、「できるだけ併用を避ける方がよい」とされています。やむを得ず併用する場合は、シメチジンの開始時・中止時の両方でPT-INRを綿密にモニタリングすることが必要です。
シメチジンは先発品(タガメット®)が処方される機会は現在では少ないですが、後発品を含めると今でも一定数の処方があります。意外なことに、シメチジンを処方された患者がポリファーマシーの状態にあるケースで、CYP阻害による相互作用が見落とされている事例は珍しくありません。
一方でファモチジン・ニザチジン・ラフチジンなどはCYP阻害活性がほとんどなく、薬物相互作用の面では安全性が高い成分です。ファモチジンとシメチジンは「どちらもH2ブロッカー」として同一視されがちですが、薬物相互作用のプロフィールはまったく異なります。
H2ブロッカーを処方する際には「成分まで確認する」ことが重要な習慣となります。特に多剤服用中の患者では、H2ブロッカーとして漫然とシメチジンを継続するよりも、CYP阻害のないファモチジンへの変更を薬剤師や担当医に提案することで、潜在的な薬物相互作用リスクを大幅に軽減できます。
薬物相互作用の問題は「知っていれば防げる」リスクです。H2ブロッカーを一括りにせず、成分ごとの特性を把握しておくことで、不必要な有害事象を未然に回避することができます。これは患者安全に直結する知識です。
参考:シメチジンのCYP阻害による薬物相互作用の根拠・詳細情報
厚生労働省「薬物相互作用に関する資料(H2受容体拮抗薬のCYP阻害について)」