老眼が進んでから遠近両用コンタクトを始めると、慣れるまでに数ヶ月かかり患者が途中離脱するケースがあります。

アルコンの遠近両用(マルチフォーカル)コンタクトレンズは、現在3ラインナップが展開されています。
まず最上位モデルが「デイリーズ トータル ワン® マルチフォーカル(1日使い捨て)」です。シリコーンハイドロゲル素材を採用しており、従来の同社ワンデーレンズと比べて酸素透過率が約6倍(Dk/t=156)という高水準を誇ります。レンズコアの含水率は33%ですが、表面に近づくほど含水率が高くなる「水のグラデーション構造」を採用しており、目に触れる最表面はほぼ100%の含水率です。これにより「何もつけていないような生感覚」と表現される高い装用感を実現しています。アルコン社が2018年に行ったユーザー調査(n=593)では、85%が「手元から遠くにピントが合いやすい」、79%が「目の疲れが軽減された」と回答しています。
次に手軽さを重視したモデルが「デイリーズ® アクア コンフォートプラス™ マルチフォーカル(1日使い捨て)」です。BC8.7という日本人の眼球カーブに合わせやすい設計で、手元から遠くまで自然に見えるとされています。1日使い捨てのため毎日清潔なレンズを使える利点があり、ケアの手間を省きたい患者に向いています。
2週間交換モデルの「エア オプティクス® プラス ハイドラグライド® マルチフォーカル」は、スマートシールド®テクノロジーによる親水性保護膜が特徴です。この膜が化粧品などの脂質汚れやレンズの乾燥を防ぎ、交換日まで安定した視界を維持します。コストパフォーマンスも高く、1箱6枚入り(3週間分)という点で継続使用しやすいモデルです。
以下に3製品の基本スペックをまとめます。
| 製品名 | タイプ | BC(mm) | 酸素透過率(Dk/t) | 含水率 | 加入度数 |
|---|---|---|---|---|---|
| デイリーズ トータル ワン® MF | 1日使い捨て | 8.5 | 156 | 33%* | LO/MED/HI |
| デイリーズ® アクア CP™ MF | 1日使い捨て | 8.7 | – | LO/MED/HI | |
| エアオプ® プラス HG® MF | 2週間交換 | 8.6 | – | LO/MED/HI |
*レンズコア含水率33%、表面含水率80%以上(測定方法はレンズ全体の含水率測定とは異なります)
3製品の中で酸素透過率が公開されているのはトータル ワン®のみです。患者に説明する際は酸素不足が充血や角膜障害のリスクにつながることも合わせて伝えると、製品選択の納得感が高まります。
アルコン公式製品ページ(遠近両用ラインアップ):
https://alcon-contact.jp/products/presbyopia/
アルコンの遠近両用コンタクトは「同時視タイプ」のマルチフォーカルレンズです。1枚のレンズに手元・中間・遠くの3つの度数ゾーンが同心円状に配置されており、視線を動かさなくても脳が必要な度数を自然に選択する仕組みになっています。これは遠近両用メガネのように「視線を下げる訓練」が不要なことを意味します。
この仕組みは「脳の選択」に依存しています。言い換えれば、適応には個人差があります。脳がレンズに慣れるまでの期間は数日から数週間が一般的で、慣れるとスマホを見るときは手元ゾーン、案内板を見るときは遠方ゾーンが自動で選ばれるようになります。
つまり装用開始直後の見えにくさは異常ではありません。
患者さんにこの仕組みを事前に説明しておくことが大切です。「最初の1〜2週間は違和感があって当然」と伝えることで、不安による早期離脱を防げます。実際、眼科医の処方全体に占めるマルチフォーカルコンタクトの割合は40歳以上の患者に限定しても30%程度とされており、処方側のスタッフが仕組みへの理解を深めることが普及の鍵になります。
アルコン独自のマルチフォーカルデザインの特徴として注目したいのは、183種類という豊富な度数展開です。老眼の進行は年齢とともに段階的に進むため、細かなステップで度数が選べることは患者の長期フォローに直結します。
アルコン マルチフォーカル製品詳細・解説ページ:
https://alcon-contact.jp/multifocal/
アルコンのマルチフォーカルレンズの加入度数は「LO(+1.25)・MED(+2.00)・HI(+2.50)」の3段階で統一されています。これを患者の老眼の進行度に合わせて選ぶことが、処方成功のポイントです。
ADD(加入度数)の年齢別目安は以下の通りです。
| 年齢 | 加入度数(ADD)目安 | アルコン対応ADD |
|---|---|---|
| 〜40歳頃 | +0.75〜+1.25 | LO(+1.25) |
| 45歳頃 | +1.50 | LO〜MED |
| 50歳頃 | +2.00 | MED(+2.00) |
| 55歳頃 | +2.50 | HI(+2.50) |
| 60歳以上 | +2.50〜+3.00 | HI(+2.50) |
参考:えんきんブログ「遠近両用コンタクトレンズの度数の選び方」(2025年)
加入度数が低いほど遠近の差は小さく、見え方の違和感も少なくなります。老眼初期で+0.75程度の方にHIを処方すると、近くは見やすくなる一方で遠方視力が落ちてしまうため、まずLOから始めるのが原則です。
処方時の注意点として、乱視が1.00D以下の患者がマルチフォーカルの適応として比較的安定しているとされています。乱視が強い患者にはマルチフォーカルの見え方に限界が生じる場合があり、事前の問診と検査が重要です。実際の処方フローとしては「①主訴の確認(遠くが見えにくいのか近くが見えにくいのか)→②現在のコンタクト名と度数の確認→③装用頻度・装用時間の確認→④ライフスタイルに合わせたレンズタイプ選定→⑤トライアルレンズによる見え方確認」の流れで進めると、処方の精度が高まります。
これが基本のフローです。
なお、アルコンは医療従事者向けに処方サポートサイト(ALCON VISION CARE PROFESSIONAL SITE)を運営しており、学会・セミナー映像資料の閲覧や処方事例の確認ができます。
アルコン医療従事者向けサイト:
http://myalcon-vc.jp/information/whatsnew/
遠近両用コンタクトは「もっと見えにくくなってから始めればいい」と考える患者が少なくありません。しかし実際は、老眼初期から使い始める方が早く慣れると言われています。
老眼初期(40代前半、加入度数LO相当)でのレンズ処方には、次のような具体的なメリットがあります。
一般的に40代前半で近くの見えにくさが始まったとき、多くの患者は「まだ老眼ではない」「もう少し様子を見よう」と受診を先延ばしにします。しかし、22cmの距離(文庫本を開いた腕の長さの約半分)にピントが合いにくくなってきたら、それが老眼初期のサインとされています。このタイミングで遠近両用コンタクトの試用を勧めることが、患者の長期的なQOL向上と眼科へのリピート来院につながります。
これは使えそうです。
なお、「遠近両用コンタクトを早めに使い始めると老眼が進む」という誤解を持つ患者もいますが、これは医学的に根拠のない俗説です。遠近両用コンタクトや眼鏡を早めに使用することで老眼が進行するエビデンスはないと、クーパービジョン等も明確に否定しています。患者への説明の中でこの誤解を解くことも、医療従事者の重要な役割のひとつです。
遠近両用コンタクトの早期開始メリットについての解説:
https://coopervision.jp/lessons/rougan-kaizen/shoujou
処方難易度が高いとみなされがちなマルチフォーカルレンズですが、実際の処方現場では「患者の期待値マネジメント」が最も重要なポイントになります。製品の性能を理解することに加えて、患者に何を伝えるかが処方成功率を大きく左右します。
具体的には、処方前に「完璧な見え方を求めない姿勢」を患者と共有することが有効です。遠近両用コンタクトは単焦点レンズと比べると、遠くや近くの一点の視力がわずかに落ちることがあります。厳密な遠方視力や細かい字の近見視力にこだわる患者には適応の事前確認が必要です。眼科医の間では「完璧主義者でないこと」が遠近両用コンタクトの適応基準のひとつとして挙げられています。
処方成功率を上げるための現場でのポイントを整理します。
処方全体に占めるマルチフォーカルの割合は、40歳以上の患者でも約30%程度と言われており、まだ処方が広がっていない背景には「処方が難しそう」という医療スタッフ側のハードルがあります。実際には上記のようなフローを整えることで、初めて処方する眼科スタッフでも成功率を高めることができます。
意外ですね。
また、患者の眼の利き目(優位眼)の確認も重要なポイントです。マルチフォーカルレンズは両眼装用が基本ですが、利き目に遠方重視の設定をすることで見え方の安定感が増す場合があります。これはアルコン以外のマルチフォーカルでも共通する知識ですが、患者説明の補足情報として持っておくと現場で役立ちます。
遠近両用コンタクト処方のコツについての専門家解説:
https://enhance.coopervision.jp/doctors-eye/2011vol1.html