アマルガム充填(AF)が保険から外れた2016年以降も、カルテの歯式に「AF」の記号が残ったままにすると、レセプト査定で返戻リスクが生じます。

アマルガムは、約50%の金属水銀(Hg)と銀・スズ・銅・亜鉛などの粉末合金を練和した歯科用充填材料です。英語表記は「Amalgam Filling」であり、その頭文字を取って歯式上では 「AF」(アじゅう、とも読む)と表記します。
練和直後は可塑性が高く、硬化後は非常に強固になるという特性から、長年にわたり臼歯部のう蝕修復において広く使われてきました。これがAFの基本です。
保険診療との関係を整理しておく必要があります。日本では2016年4月の診療報酬改定により、銀アマルガム用合金が保険適用材料から除外されました。さらに2020年からは製造も停止されています。つまり、現在の臨床でAFが新規に施術されるケースはほぼゼロです。
しかし、過去に治療を受けた患者さんの口腔内にはAFが残存しており、初診時の歯式記録や身元確認・法歯学の場面では今も重要な情報となります。AFは「過去の治療歴」として歯式に必ず記録する必要があります。
保険除外後は「AFとして記録したままでいいのか」と迷う場面があるかもしれません。答えはシンプルで、現状の口腔内所見をそのまま記録するのが原則です。AFは過去の修復物として歯式に残し、それ以上でも以下でもありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | アマルガム充填(Amalgam Filling) |
| 歯式記号 | AF(アじゅう) |
| 主成分 | 水銀(約50%)+銀・スズ・銅・亜鉛の合金粉末 |
| 保険適用 | 2016年4月に除外(製造は2020年以降停止) |
| 現在の臨床使用 | 新規施術なし(既存修復物として残存) |
| 視覚的特徴 | 銀色〜黒色に変色、金属光沢あり |
参考:AFの成分・保険除外の経緯と現在の安全性評価についての詳細は以下を参照。
AFの功罪|恵比寿の歯科医院によるAFとコンポジットレジン修復のエビデンス解説
歯式にAFを記録する際は、単に「AF」と書くだけでは情報が不十分です。正確な記載のためには、どの歯のどの面に充填されているかを面記号と組み合わせる必要があります。
面記号は以下のアルファベットで表します。
たとえば、右下第1大臼歯(6番)の咬合面と近心面・遠心面にまたがるAFは「AF(MOD)」と記載します。咬合面のみであれば「AF(O)」と書くのが基本です。面記号はAFの後ろに丸括弧を付けて記入します。これが現場での標準的な書き方です。
デンタルチャートの図上では、充填されている面を黒く塗りつぶすことでAFを示します。これはエックス線写真でも金属部分が不透過像として白く映るため、両者を照合しやすい利点があります。ただし、X線写真だけでは金属の種類(AFかInかFMCか)を断定できない場合もあるため、「金属修復物」と記載するにとどめることもあります。
| 記載例 | 意味 |
|---|---|
| AF(O) | 咬合面のみのアマルガム充填 |
| AF(MOD) | 近心・咬合・遠心面にまたがるアマルガム充填 |
| AF(OB) | 咬合面・頬側面のアマルガム充填 |
| AF(MOP) | 近心・咬合・口蓋側面のアマルガム充填 |
| AF(OD) | 咬合面・遠心面のアマルガム充填 |
混合歯列期の患者では乳歯と永久歯が並存するため、歯式記号が最も混乱しやすい場面のひとつです。乳歯のAFはアルファベット記号(A〜E)で歯番を示したうえで、同様に面記号と組み合わせます。乳歯と永久歯で記号体系が違うことを押さえておけばOKです。
参考:歯科衛生士向けのカルテ記入と歯式記号の詳細一覧はこちら。
歯科衛生士必見!歯式記号のカルテ記入やその一覧について紹介|うえの歯科医院
日本の歯科診療録では、大きく分けて2つの歯式表記方式が使われています。それがZsigmondy-Palmer(ZSP)方式とFDI(国際歯科連盟)方式です。
ZSP方式は日本独自の方式で、十字のグリッドによって口腔内を右上・左上・右下・左下の4象限に分け、各象限の歯を1〜8の数字で示します。たとえば「右上6番」は右上第1大臼歯を指し、日本の保険診療レセプトでも長らく使われてきた馴染み深い形式です。
FDI方式は国際的に広く普及した2桁表記で、象限番号(1〜4)と歯番(1〜8)を組み合わせます。たとえば右上6番はFDI方式では「16」と表記します。乳歯は象限番号5〜8を使い、右上乳臼歯Dは「54」などと示します。
AFの記載自体に表記方式による違いはなく、どちらの方式でも「AF」または面記号を組み合わせた記載を使います。注意すべきポイントは歯の番号です。
方式の違いで番号が変わるため、転院患者の情報を受け取る場合や身元確認業務で他機関のカルテを参照する際には、どちらの方式で書かれているかを最初に確認することが不可欠です。これが実務上の落とし穴になりやすいです。
参考:FDI方式と歯科部位のアルファベット表記を詳しく解説したページ。
歯科助手や新人歯科衛生士に伝授!歯科用語アルファベットの表し方|ORTC
AFを含む歯科所見が生死を分ける場面があります。それが大規模災害時の身元確認です。
東日本大震災では、全国から延べ2,600名の歯科医師が出動し、約5カ月間で約8,750体の遺体の歯科所見を採取して身元確認に貢献しました。歯科所見による身元確認は、遺体が高度に腐敗・損傷していても有効であり、全身の中で最も変化しにくい硬組織である歯が照合の核心となります。
AFはX線写真上で高い不透過像を示すため、とくに判別しやすい修復物のひとつです。咬合面のAF(O)なのか、近心・遠心面にまたがるAF(MOD)なのかという修復面の情報が照合精度を大きく高めます。この情報の精度が鍵です。
公益社団法人日本歯科医師会が発行した『身元確認マニュアル(令和7年5月改訂版)』では、デンタルチャートに記載すべき標準記号としてAF(アマルガム充填)が明記されています。死後記録と生前のカルテを照合する際、面記号まで正確に一致していれば個人識別の確度が著しく上がります。
つまり、日常の診療でAFの面記号を省略して「AF」とだけ書いていると、万が一の災害時に照合できないリスクが生じます。普段から面記号を含む正確な歯式記録を習慣づけることが、法歯学的な観点からも重要です。
参考:日本歯科医師会による身元確認マニュアル(令和7年改訂版)は以下から確認できます。
大規模災害時の歯科医師会行動計画 別添・身元確認マニュアル改訂版|公益社団法人日本歯科医師会(2025年5月)
AFの歯式記録で現場スタッフがはまりやすいポイントを整理しておきます。正しく理解すればミスを減らせます。
まず最も多い誤りがAF(O)とIn(O)の混同です。両者ともに金属系の咬合面修復物ですが、AFは直接充填、Inは型取りして作製するインレーです。変色した旧来のAFはX線写真で確認しやすいものの、口腔内の視診では判断が難しい場合があります。不明な場合は「金属修復物」と記載するか、ドクターに確認してから記入することが基本です。
次に多いのが面記号の省略です。単に「AF」とだけ書くケースをよく見かけますが、これでは充填されている面の情報が失われます。前述のとおり、法歯学的な身元確認においても実臨床の治療計画においても、面記号の記載は欠かせません。
また、AFと変色歯の混同にも注意が必要です。長年の経過でAFが黒く変色し、歯冠の一部が薄黒く見える場合、う蝕と誤認するケースがあります。X線写真で不透過像を確認し、修復物か未処置う蝕かを鑑別してから歯式に記入することが大切です。
新人スタッフへの指導ポイントとしては、以下の3点をチェックリスト化しておくとよいでしょう。
「面記号まで書いてある記録」と「AFとだけ書いてある記録」では、他の医療従事者が受け取ったときの情報量が天と地ほど違います。カルテの質が患者ケアの質を支えるとも言えます。口腔診査情報の標準化を進める厚生労働省の取り組みにおいても、AFをはじめとする修復物情報の面記号を含む正確な記録が推奨されています。
参考:口腔診査情報の標準コード仕様(AF(TF-10)の定義を含む)はこちら。
口腔診査情報標準コード仕様 Ver.1.01|公益社団法人日本歯科医師会(2019年)

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