あなたが輸出10日前ではなく「当日」に申請書を出そうとすると、その犬は日本から出国できません。

犬を日本から海外へ輸出する際の検疫は、「狂犬病予防法」および「家畜伝染病予防法」の双方に基づいて実施されます。 これはペットとして個人が連れ出す場合だけでなく、業務上の輸送を含むすべての犬の国外移動に適用されます。
関連)https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000200068
通関業に携わる方が誤解しやすいのは「犬の輸出は税関だけの話」という認識です。実際には動物検疫所(農林水産省管轄)での手続きが先行し、その後に税関手続きとなります。二つの省庁にまたがる手続きが存在することを念頭に置く必要があります。
法令の正式名称は「犬等の輸出入検疫規則(平成11年農林水産省令第68号)」。 この規則に基づき、輸出者は事前に動物検疫所へ申請書を提出し、家畜防疫官による検疫を受けることが義務づけられています。違反した場合は輸出が差し止められるのはもちろん、法的なペナルティが生じる可能性もあります。
関連)https://www.se.emb-japan.go.jp/nihongo/inuneko_kisoku_sanko.pdf
| 根拠法令 | 主な対象 | 所管省庁 |
|---|---|---|
| 狂犬病予防法 | 狂犬病感染リスクの管理 | 農林水産省・厚生労働省 |
| 家畜伝染病予防法 | レプトスピラ症等の管理 | 農林水産省 |
| 犬等の輸出入検疫規則 | 輸出入の検疫手続き全般 | 農林水産省(動物検疫所) |
農林水産省・動物検疫所の公式ページ(犬の輸出手続き概要)。
農林水産省 動物検疫所「日本から海外への犬、猫の持ち出しについて」
輸出検査申請書(「狂犬病予防法及び家畜伝染病予防法に基づく犬の輸出検査申請書」、通称「A申請書」)は、遅くとも輸出予定日の10日前までに管轄の動物検疫所へ提出する必要があります。 羽田空港を利用する場合はさらに余裕をみて、2週間前が推奨されています。
関連)https://www.maff.go.jp/aqs/animal/index.html
この期限を過ぎると検査日時の予約が組めず、輸出が物理的に不可能になります。これは通関業者として依頼主への周知が必須な情報です。
申請書の提出方法は書面のほか、農林水産省が運用するオンラインシステム「ANIPAS(動物検疫検査手続電算処理システム)」を利用する方法もあります。 ANIPASを活用することで書面の郵送ロスや記載ミスのリスクを減らせるため、業務効率の観点からも積極的に活用を検討したいところです。
関連)https://www.shinozaki-vet.net/travel.html
提出に必要な主な書類は以下のとおりです。
「健康証明書は動物病院が発行するものでよい」と誤解されることがありますが、輸出の際に必要な衛生証明書は政府機関が発行したものでなければ相手国に受け入れてもらえません。 民間の動物病院発行の書類は補完書類として添付できても、それ単独で正式な証明書にはなりません。
関連)https://www.forth.go.jp/keneki/narita/eisei/animal3/03.html
狂犬病ワクチンは生後3か月齢(12週齢)以降でないと接種できません。 また、接種から抗体価の血清検査まで一定期間を要するため、輸出スケジュールが決まった段階で獣医師に早急に相談することが不可欠です。
関連)https://www.se.emb-japan.go.jp/nihongo/inuneko_kisoku_sanko.pdf
血清検査で確認が必要な抗体価は0.5 IU/ml以上。 この基準を下回ると再接種・再検査が必要になり、スケジュールが大幅にずれる可能性があります。
関連)https://www.se.emb-japan.go.jp/nihongo/inuneko_kisoku_sanko.pdf
実務上の注意点を整理すると次のとおりです。
期間を逆算すると、抗体価確認済みの状態で輸出前10日前に申請、というだけで最低でも数か月単位の前倒し準備が必要なケースがあります。準備期間の不足は「輸出の遅延」ではなく「輸出の断念」につながりかねません。厳しいところですね。
これらのスケジュール管理には、動物検疫所の公式ページや獣医師との連携が最大の対策になります。
農林水産省・動物検疫所の申請様式一覧。
農林水産省 動物検疫所「各種申請・届出書の様式目次」
当日の手順は「搭乗チェックインの1時間前」に動物検疫所のカウンターで検査を受けるところから始まります。 家畜防疫官が犬の状態と書類の整合性を確認し、問題がなければ「輸出検疫証明書」が発行されます。
関連)http://guidedog-jp.net/travel.htm
輸出検疫証明書が発行されて初めて、航空会社のカウンターへの持ち込みが認められます。つまり証明書なしでは搭乗手続きを進めることができません。これが基本です。
当日に備えて確認しておくべきチェックリストです。
通関業者として依頼主から相談を受ける際は、「動物検疫所の確認+相手国大使館の確認」という二段階のチェックを促すことが重要です。特に輸出先が複数の乗り継ぎ国を経由する場合は、経由国の動物検疫要件も確認する必要があります。これは見落としがちですね。
あまり語られないのが「輸出検査証明書を取得した後」の問題です。日本側の手続きが完了しても、相手国の要件を満たしていない場合は入国できません。 日本の動物検疫所はあくまで「日本からの輸出要件」を証明するだけであり、相手国の輸入要件はそれぞれ異なります。
関連)consular_animal-jtoc.html">https://www.cn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/consular_animal-jtoc.html
例えば中国への犬の持ち込みは1人につき1回の入国で1頭のみに制限されており、犬・猫以外は禁止です。 また、台湾向けは公益財団法人交流協会を通じた手続きが発生するなど、国ごとに窓口と要件が大きく変わります。
関連)https://www.koryu.or.jp/consul/others/animal/
通関業者が依頼主に対して負うべき責任範囲を明確に把握しておくことが重要です。
相手国ごとの輸入条件の違いを把握しきれないまま輸送手配を進めると、現地空港での入国拒否・隔離・返送という深刻な結果を招きます。これは依頼主にとって金銭的・精神的に大きな損害です。業務範囲の明確化と事前の免責説明が、通関業者としてのリスク管理の基本になります。
e-Gov法令検索「犬等の輸出入検疫規則(農林水産省令第68号)」。
e-Gov法令検索「犬等の輸出入検疫規則」