「JAEPAは原産地証明書さえあれば特恵適用できる」と思っていると、後から追徴課税を受けます。

JAEPA(Japan-Australia Economic Partnership Agreement)は、2014年7月8日に署名され、2015年1月15日に発効した日本とオーストラリア間の経済連携協定です 。発効から10年間で両国の貿易額の約95%の関税が撤廃されるという、日本が締結したEPAの中でも規模の大きい協定です 。 jetro.go(https://www.jetro.go.jp/world/oceania/au/jaepa.html)
通関業務において重要なのは、JAEPAが単なる関税削減の枠組みにとどまらず、通関手続きの透明性確保・迅速な貨物通関・情報交換の仕組みまでを含む包括的な協定だという点です 。物品貿易に加え、サービス・投資・知的財産・政府調達など幅広い分野をカバーしているため、通関業者としては「貨物の特恵関税」に限らず、協定全体の構造を把握しておく必要があります 。 customs.go(https://www.customs.go.jp/english/c-answer_e/keizairenkei/4040_e.htm)
協定の対象品目は非常に広範囲です。農産品ではオーストラリア産牛肉(2018-19年時点で年間23億オーストラリアドル規模)の段階的関税削減、ボトル入りワインへの15%関税の7年間での撤廃、チーズ・乳製品の無税枠設定など、食品関連の特恵が注目を集めます 。鉱工業品においては、オーストラリアの資源・エネルギー・製造業輸出の99.7%で関税が撤廃されています 。これが重要です。 mybusiness.com(https://www.mybusiness.com.au/how-we-help/grow-your-business/preparing-to-export/a-quick-guide-to-the-australia-japan-free-trade-agreement)
JAEPAの特恵税率を適用するには、貨物が「JAEPA上の原産品」であることを証明する必要があります。原産地規則は品目ごとに異なるため、一律の判断は通用しません 。 kanzei.or(https://www.kanzei.or.jp/origin/)
具体的には以下の3つの基準が用いられます。
通関実務で特に注意が必要なのは、CTH(関税分類変更)基準の確認です。非原産材料を使って製造した製品が、最終的なHSコード4桁レベルで原材料と異なる分類になっているかを確認しないまま特恵申告すると、事後確認の際に原産性が否定されます。これは時間コストの問題です。
原産地規則の判断に迷う案件では、税関への「事前確認制度」(事前教示制度)を利用することが有効です。書面による事前教示を取得しておけば、申告後の追徴リスクを大幅に下げられます。
JAEPAが他の協定と大きく異なる点のひとつが、「完全自己申告制度」の導入です 。従来のEPAでは第三者機関が発行する原産地証明書(COO: Certificate of Origin)のみが認められていましたが、JAEPAでは輸出者・生産者・輸入者のいずれかが自ら作成する「特定原産品申告書(OCD: Origin Certification Document)」でも特恵申告が可能です 。 dfat.gov(https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/jaepa/business/jaepa-and-certificates-of-origin)
これは意外ですね。つまり、認定機関の証明書がなくても申告できるということです。
ただし、OCDには必ず記載しなければならない5つのデータ要素(data elements)があります 。書式は自由ですが、以下の要素を欠いたOCDは無効と判断されます。 dfat.gov(https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/jaepa/business/jaepa-and-certificates-of-origin)
| 項目 | 内容 |
|------|------|
| ① 輸出者・生産者・輸入者の情報 | 氏名・住所・国名 |
| ② 物品の説明 | HSコードを含む品名・数量 |
| ③ 原産地規則の充足に関する申告 | 適用した基準の種別 |
| ④ 締約国の特定 | 原産国(日本またはオーストラリア)の明記 |
| ⑤ 日付・署名 | 発行日・署名者の情報 |
COOとOCDはいずれも有効期間は1年間で、1つの積み荷(consignment)に対して適用されます 。また、COOを発行した者またはOCDを作成した者は、発行日・作成日から5年間、原産性を証明するすべての記録を保存しなければなりません 。5年間が条件です。 dfat.gov(https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/jaepa/business/jaepa-and-certificates-of-origin)
OCDを自社で作成する場合、Annexに定められたサンプル書式を参考にしながら5つの要素を網羅しているか、申告前にダブルチェックを行うことを強く推奨します。
オーストラリア外務貿易省|JAEPAの原産地証明制度の詳細(英語)
通関業者として特恵申告を確実に行うためには、以下の手順を踏むことが基本となります。
特恵税率の適用を受けた後でも、税関当局は事後確認を実施する権限を持っています。確認が来た場合、証明書類の提出に加え、必要に応じて原産性を裏付ける製造記録・購入伐採証明・付加価値計算書なども求められます。事後確認への対応力が問われます。
事後確認への対応漏れが起きやすいのは、「申告時だけ書類を揃えれば終わり」という誤解が原因です。申告後の記録管理を社内ルールとして明文化しておくことが、リスクを下げる最も有効な対策です。
JAEPAで特恵を申告しようとする通関業者の多くが、原産地規則の確認や書類整備に集中します。しかし、実務上の脱落ポイントとして「積送基準(Direct Consignment Rule)」の違反が見落とされがちです。
積送基準とは、原産品が輸出国から輸入国へ直接輸送されなければならない、というルールです。第三国を経由する場合、当該第三国での保管や転送が「単純な輸送目的」に限られている必要があります。加工・製造・転売目的で第三国に入れた貨物は、JAEPAの原産性を失うリスクがあります。これは法的リスクです。
たとえば、オーストラリア産の牛肉製品を経由地のシンガポールで一時保管し、日本へ輸出するケースを考えます。シンガポールでの保管が「輸送目的のみ」と証明できれば問題ありませんが、シンガポール側でラベル付け替えや簡易加工が行われた場合、原産性が失われ特恵税率が適用できなくなります。痛いですね。
積送基準を満たしていることを確認するためには、B/L(船荷証券)やAWB(航空貨物運送状)の経由地情報、第三国での保管期間・目的に関する証明書類を事前に取得・確認しておくことが有効です。荷主からの情報収集を申告前のチェックリストに組み込むことを推奨します。
| 確認事項 | 確認書類 | 注意点 |
|---|---|---|
| 直接輸送の証明 | B/L / AWB | 経由地・積替港の記載を確認 |
| 第三国保管の目的 | 倉庫業者の保管証明 | 加工・製造目的でないことを明示 |
| 貨物の同一性 | パッキングリスト・インボイス | 第三国経由前後で品目・数量が一致しているか |
オーストラリア外務貿易省|JAEPAを活用した輸出入ガイド(英語)
JAEPAは発効後も継続的に見直しが行われています。2015年の発効当初から段階的な関税削減スケジュールが設定されており、品目によっては現在も削減が継続中です。農産品の一部(牛肉・乳製品等)では、毎年1月1日に適用税率が変わるため、申告時に最新の関税率表を参照することが必須です。関税率の最新確認が原則です。
また、2022年にオーストラリア税関が実施した法改正(Customs Amendment Bill)では、原産地規則の一部運用細則が整備されました 。法律の変更は輸入申告の手続きに影響することがあるため、関連する通達・告示を定期的にウォッチする習慣が重要です。 clarkeglobal.com(https://www.clarkeglobal.com.au/new-legislation-introduced-effecting-japan-australia-economic-partnership-agreement/)
通関業者として実務をアップデートし続けるためには、以下のリソースが役立ちます。
jetro.go(https://www.jetro.go.jp/world/oceania/au/jaepa.html)
abf.gov(https://www.abf.gov.au/free-trade-agreements/files/jaepa-comparison-table.pdf)
dfat.gov(https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/jaepa/japan-australia-economic-partnership-agreement)
関税率の変動は輸入者の利益に直結します。通関業者として「最新の税率で申告しているか」を確認する仕組みを自社に組み込むことが、顧客との信頼関係を維持するうえでも不可欠です。
JETRO|日本・オーストラリア経済連携協定(日豪EPA)の概要と活用情報